きわめてよいふうけい/試写レポート
2019/08/29
写真家・中平卓馬
伝説的な写真家、中平卓馬のドキュメント・フィルムだ。
中平卓馬は、60~70年代はかなり先鋭的な写真家だったらしい。
「映画がゴダールを持ったとすれば、写真は中平卓馬を持った…。」
その世界では、そう言われるほどの存在のようだ。
自らの表現をもすでに制度であるとし、いっさいを否定するために、それまでの作品のネガとプリントのほとんどを海辺で焼却したりもしたそうだ。
そんな過激な写真家の彼だったが、1977年にパーティで酔いつぶれ、昏睡状態に陥った。意識を回復した後は一切の記憶を失っていたという。
ふたたび写真家として活動を再開した中平。
そんな彼を撮影したのは、いや、静かに見つめているのは、監督もかねている写真家のホンマタカシだ。
中平卓馬がどれほど先鋭的かつ過激な写真家だったかを当時を知らぬ私は知る由もないが、映像でつづられる姿はヨボヨボで頼りなげな普通の爺さんそのもの。かつてを知る人にしてみれば、ショッキングな映像なのだろうか。
なにせ、冒頭で、弱々しく消え入りそうな声で朗読される彼の日記は“○月○日には何時間寝た”といった、睡眠時間の記録ばかり。驚くほど、単調で穏やかな日常だ。静かで、消え入りそうで。
そんな写真家の日常を映像として切り取られた40分の上映時間のこの映画は、映画というよりも、記録というよりも、一枚のポートレイトを見ているような気分にさせられる。
ただし、かつて“すげぇ写真家”だった中平を知る者にとっては興味深い映像なのだろうが、私のように“知らぬ者”にとっては、“かつてすごかった伝説の写真家が、⇒今はこんな感じ”という生き様のギャップや人間像は伝わりがたい内容だったこともたしか。
“壮絶でかつ静かな生き様”ということを画面で淡々と伝えたいのだろうということは分かる。単なる説明チックなドキュメント仕立てにしたくないこともよく分かる。しかし、私の場合は“壮絶でかつ静かな生き様”という文字上の理解だけで、映像から受ける説得力はちょっと乏しかったような、そんな気がした。
観た日:2004/03/29
映画データ
製作年 : 2004年
製作国 : 日本
配給 : リトルモア+スローラーナー
監督+撮影 : ホンマタカシ
公開 : 2004/05月下旬~
中平卓馬 書籍
以下、中平卓馬の書籍、関連本です。素晴らしい装丁のものが多いですね。
記:2004/04/09