父と暮せば/試写レポート
2018/01/09
井上ひさし原作の戯曲を映画化した作品だ。
もとより戯曲の映画化なので、セリフが多いし、ほとんど、原爆被害者の宮沢りえと、原爆で死んだ父の幽霊・原田芳雄とのダイアローグを中心に物語が組み立てられている。
『たそがれ清兵衛』以来、宮沢りえは、本当に役者として成長しているんだなぁと思った私だが、ここでの彼女の演技もひときわ素晴らしい。
「三井のリハウス」CMにはじまり、『ぼくらの七日間戦争』で人気沸騰、当時の国民的美少女といわれた“ゴクミ(後藤久美子)”の後をつぐような期待と注目の目を世間から集め、ヌード写真集『サンタフェ』の発表で世間をアッと言わせたり、貴花田との婚約解消劇や、“りえママ”バッシングなど、さまざまな話題でマスコミや世間を賑わしてきた“アイドル・宮沢りえ”に関しては、私はまったく無関心だったが、最近の“女優・宮沢りえ”は非常に気になる存在だ。
この映画の舞台は、原爆投下から3年後の広島。
宮沢りえ演ずるは、生き残ったことへの後ろめたさに苦しみ、幸せになることを頑なに拒みつづける主人公・美津江。
だから、浅野忠信に抱く恋心も、必死に押さえこもうと葛藤している。
「うちはしあわせになってはいけんのじゃ。」のセリフが痛々しい。
そんな娘を心配して、“ピカ(原爆)”で死んだはずの父だが、死んでも死にきれずに「恋の応援団長」としてこの世に現われる。この父・竹三は原田芳雄が演じている。
幽霊とはいっても、地にどっしりと足がついているし、娘と二人で防空頭巾をかぶって押入れに閉じこもり、「おっかねぇのぉ」などと雷に怯えるようなユーモラスな面もあるので、幽霊というよりは、もうほとんど普通の人間だ。
もっとも、雷に二人が怖れおののくのは、ピカの後遺症によるものなのだが……。
物語に通するトーンは、あくまで静か。
原爆の恐ろしさを、たとえばハリウッド映画だったら、これでもかとばかりにセットを猛烈にぶち壊す演出をし、鑑賞者の目と耳にインパクトづける演出をするだろう。
しかし、『父と暮せば』の場合は、淡々と語られる会話によって鑑賞者の心に静かに原爆と戦争の悲惨さを焼き付ける内容となっている。
これは言葉による試みだ。
そしてこの試みは、原田芳雄と宮沢りえの素晴らしい演技によって見事に成功している。
だから、号泣はできない。じわりと涙のこぼれる作品だから。
ラストの宮沢りえのセリフ、「おとったん、ありがとありました」が心に染みる。
観た日:2004/06/11
movie data
製作年 : 2004年
製作国 : 日本
監督 : 黒木和雄
出演 : 宮沢りえ、原田芳雄、浅野忠信
配給 : パル企画
公開 : 7/31より岩波ホール他 全国順次ロードショー
記:2004/07/14