椎名林檎入門

2020-02-05

最初と最近のアルバムから

デビュー以来、椎名林檎ファンな私。

デビューしてもう10年が経つ林檎ちゃんですが、彼女の音楽は、ぶっちゃけ、ヘタなジャズより何百倍もヒリヒリとした刺激的な音楽だと思っています。

ジャズ仲間とのミーティングの際も、ことあることに「林檎ちゃん、林檎ちゃん」と言い続け、自分の番組でも林檎ちゃんの最高傑作《丸の内サディスティック》をゲストミュージシャン(土濃塚隆一郎さん)とセッションしてしまうほど林檎熱を保持し続けている私。

そんな私を見ているジャズマニアからは、

「アンタがそんなにイイというなら聴いたいのだが、何がオススメなんだ?」

という質問を頂戴しました。

「東京事変」というバンドの一部を作品を除けば、「すべてイイのである!」と言いたいところをグッとこらえて、2枚に絞ると……

お勧めは、ズバリ!
一番最初か、一番最近のアルバムです。

一番最初のアルバムは、『無罪モラトリアム』。


無罪モラトリアム

一番最近のアルバムは、『三文ゴシップ』。


三文ゴシップ

この2枚を聴けば、あくまで大雑把に、ですが、椎名林檎という類稀なる才能を持つ音楽屋の表現、表現の引き出し、世界観を俯瞰出来るのではと思います。(本当は全部聴くのが良いにこしたことはないのですが・笑)

まずは、


無罪モラトリアム

から行きましょうか。

なんといっても、当時、多くのリスナーに衝撃を与えた代表作《歌舞伎町の女王》が収録されているのがポイント。

私もこの曲のベースラインがカッコよくて、これを弾きたいがために林檎コピーバンドを結成したほどですから。(今でも週に一回はこの曲に合わせてベースを弾いている・笑)

また、個人的・林檎の最高傑作《丸の内サディスティック》も収録されており、この曲は、ジャズマンの土濃塚隆一郎氏もカバーしています。(番組収録中にセッションしちゃったほど、2人は林檎好きだったのです)

デビュー前は、累計二十個以上のバンドをかけもちし、ピザ屋などでバイトをしながら曲作りをしていた彼女。

デビューしたての頃の林檎には、ヒリヒリした疾走感と、痛みを伴った青春の青臭さがみなぎっており、今でもこのアルバムが好きな人が多いです。

私は、このアルバムを聴いて、「なんてジャジーなんだ!」と直観的に感じましたが、多くの林檎好きからは、「え~? ジャジーですかぁ?」と奇妙な顔をされたものです。

たしかにこのアルバムには4ビートのリズムはありません。
(例外として「4ビートっぽい」リズムが、《シドと白昼夢》のサビがありますが……)

しかし、リズム云々ではなく、全体から漂う、締め付けられるような切なさ、ヒリヒリとした刹那的フィーリングは、優れたジャズの持つそれそのものだったのです。

しかし、その後に4ビートにも手を出し、ジャズバンドのPe’zのピアニストを雇ったり、さらには映画『錯乱』では音楽監督をも務めた彼女の体内ビートの成分の多くは4ビートだということが一般的に認知されている現在においてはは、ジャジーなフィーリングも彼女の表現の重要な引き出しの一つという認識が定着していますが、ふっふっふ、私の直感もあながち間違っていなかったぜ~と思っております(笑)。

もう1枚の推薦アルバム。
これは、一番最近に出た新譜ですが、『三文ゴシップ』も最高!です。


三文ゴシップ

デビューして10年。

成熟して表現力の増した林檎ちゃんの多彩な音楽性を楽しめます。
非常に表現の引き出しが増えていますし、サウンドも多彩になっています。

林檎ちゃんのお父上はクラシックをオーディオのマニアで、休日は近所の人を自宅に招いて「鑑賞会」を催していたほどの人。
また、彼女のお母さんは、ザ・ピーナッツなどの「昭和歌謡」のマニアで、シングルレコードをたくさん持っていた人。

肝心のリンゴちゃんはその両親の影響をバランス良く受け継いでいると感じます。

クラシックの凝ったアレンジメントやオペラ的なスケールの大きな表現と、歌謡曲の猥雑でキャッチーな要素という2つの相反する要素が違和感なく彼女の音楽には混在している。

また、本人は、高校時代は放送部で、お昼の時間はエラ・フィッツジェラルドをかけていたそうで、早い時期からジャズにも興味を持っていたようですね。

このように彼女の中に眠る様々な音楽性がバランス良く開花しているのが『平成風俗』だと私は感じます。


平成風俗

しかし、それがさらに機動力のあるポップスに昇華されているのが『三文ゴシップ』なんですね。

まずは、《密偵物語》と《色恋沙汰》にグッときましたね。

《密偵物語》のスリリングな4ビートに興奮。《色恋沙汰》の、ちょっと懐かし昭和初期の歌謡的フレバーを振りまく4ビートは気持ちよいことこの上なし。トロンボーンやオルガンが可愛らしいです。

林檎ちゃん以外の男性ラップがアルバムの冒頭を飾り度肝を抜く《流行》は、キャッチーなサビが「嗚呼、林檎的世界健在&遍在!」ですし、林檎的循環コードが気持の良い《労働者》は、現在活動封印中の林檎コピーバンドの我々メンバー全員がやりたい!と言い出しそうな、楽器心を擽り捲る快調曲。

《カリソメ乙女》のビッグバンド的アレンジと、イーヴンに4つを刻むオルガンの気持ちよさ。グロウルをかけまくったテナーサックス、トロンボーンのオブリガードも最高。それ以上に歌詞とメロが素晴らしく、『錯乱』のテーマ曲が好きな人や、エゴラッピン的猥雑裏通り的昭和歌謡テイストを好む老若男女にもぜひお勧めしたい。

リズムといえば、《マヤカシ優男》の十六的ラテン細分化リズムや、《余興》のAメロの8ビートは、まるでストーンズの『ヴードゥ・ラウンジ』でのダリル・ジョーンズ&チャーリー・ワッツのリズムセクションを彷彿とさせ、滅茶苦茶気持ちが良い。

音楽を好きな人ほど、様々な音楽を知っている人ほど、ツボがありまくりなアルバムが今回の新作『三文ゴシップ』なのです。

林檎ちゃんは、セカンドアルバムに収録され、シングルにもなった《本能》での看護婦コスプレ姿で、当時はミーハーな瞬間風速的風俗ファンが大挙して増加した過去があり、いまだ色物的色眼鏡の視線を拭えぬ方もいらっしゃるかもしれませんが、10年間林檎ちゃんをキチンと聴き続けている真性林檎ファンは、クラシックやジャズなど、J-POP以外の音楽の守備範囲の広い純粋な音楽好きが多いことも指摘しておきたいです。

頑固なジャズマニアには、「このアプローチは既に誰々がやっているからもう古い」というよな、切り口やアプローチの新しさ・古さでしかサウンドを捉えようとしない偏屈さんもいらっしゃいますが、「組み合わせ」や「コーディネイトのセンス」も、重要なクリエイティヴィティの一つなのだということも指摘しておきたいです。

記:2009/07/05

音楽

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