サンマーメン

      2018/01/14

motomachi横浜・元町・裏通り

幼少時の味覚は大人になっても引きずるのだと思う。

名古屋、大阪に住む前に私に染み付いた味覚。

それは、サンマー麺。

私は横浜の元町で生まれ、5歳までそこにいたので(実家は横浜なのです)、そのときに形成された味覚というか、いまでも思い出したときに食べるたびに、うひゃあ懐かしい、うめぇ!となるの、サンマー麺。

聞いたことない人もいるかもしれないが、横浜発祥のラーメンなんです。

漢字で書くと「三碼麺」。

モヤシ、ニンジン、タマネギ、豚肉、きくらげなどを炒め、カタクリコでトロリととじた、いわゆる、あんかけラーメンで、これまたトロリとして、冬に食べると暖まるのですね。野菜も多いので、食べ手があるし、栄養もたっぷり。

中華料理屋に行くと、いつもこればかり食べていた記憶がある。

ほんのりと甘酸っぱさもともなう味。 だからコショウをかけると、互いに味が引き立ち、より旨みが増す。麺は細麺だ。

元町といえば、中華街が目と鼻の先の街。

サンマー麺が生まれたのは、終戦後のこの地域らしいので、なるほど、発祥の地で私は生まれ育ったのか。それでよく口にしていたのかもしれない。

もちろん、東京でサンマー麺なんて言っても「秋刀魚麺? なにそれ? 魚のラーメン?」なんて言われそうだし、実際、ラーメン屋にはそんなメニューはない。

私自身も、ホープ軒や、じゃんがらの「こぼんしゃん」といったトンコツ系や、 「一蘭」の辛子ラーメンが好きなので、普段はこれらのラーメンを中心にしたラーメンライフを送っているのだが、それでも、時々サンマー麺が懐かしくなる。

JR横浜で下車し、シーバスに乗って、かもめと追いかけっこをしながら潮風に当たること15分。

山下埠頭をゆっくり歩いた後、フランス公園を散策。

港の見える丘公園を経て、丘の上の静かな高級住宅街を10分近く歩く。

午後だと、制服を着た女學生とすれ違うが、彼女らはフェリスの生徒たちだ。

なにをかくそう、私が幼稚園児のときに、生まれてはじめてスカートめくりをした制服の学校だ(今の制服は、昔とかわってしまったような……)。

スカートめくりったって、いや、べつにスケベ心があったんじゃなくて、私を可愛がってくれたお姉さんたちへのサービスのようなものでさ、というのも、この女學校の向かいにある「山手カトリック教会」の幼稚園に私は通っていたのですね。

べつにカトリック教徒じゃないんだけれども、名門だからってことで、親が試しに私に試験を受けさせたら偶然合格してしまったので、ここに通っていたの。

だから、ここに通っていた私は、近所のお姉さんたちと仲が良かった、……んじゃなくて、ようするにからかわれていたんでしょうなぁ。

この学校や教会に辿りつくちょっと手前の急な傾斜の坂を下りてゆくと、おお、懐かしい、わが横浜、元町タウン。

私が生まれた病院はなくなり、かつての面影を残した店も少しずつ減ってきてはいるけれども(ユニオンやポンパドールは健在!)、そして、みなとみらいなんぞに人気を奪われ、少しさびれかかっている商店街に「もっと頑張れよ!」とも思うけれども、やっぱり、この場所に立つと、単純に細胞が震えるんですね。

景色は変わっていても、生まれた場所だからかな?

土地の空気と全身が妙にシンクロするような不思議な感触。

おかしいよね、人間の細胞なんて、7年ぐらいで全部入れ替わっちゃうのにね。

でも、細胞の記憶はコピーされて引き継がれているということを感じる瞬間でもある。

で、だいぶ歩いてお腹もすいたころだから、ここらにあるレストランで食事をしてしまっても良いのだけれども、中華街の方向に足を伸ばしてみよう。

体力あれば、伊勢崎町のほうまで行ってもいいけれど。

歩いてゆくと、少しずつ、ラーメン屋があります。

小さいラーメン屋、汚いラーメン屋。

でも、いいんです。

こういうラーメン屋には、サンマー麺、あります。

中華街の中にもありまっせ。

いわゆるメインストリートにあるビルを構えた店ではなく、それらのビルの間の路地にあるラーメン屋。

こういうところのラーメンっておいしいところが多いんだけれどもさ、サンマー麺作ってくれるところも多いですよ。

潮風を浴びて、軽く森林浴をして、坂を上り下りして、少し疲れてきた身体には、サンマー麺は最高です。

五臓六腑に染み渡ります。

外人ハウスがなくなり、マイカルが倒産し、みなとみらいが出来、 元町がさびれ、伊勢崎町はピンサロ街と化し、と、そんな現在の横浜のことを私は決して好きではありません。

訪れるたびに、独特のオリジナリティが失われているというか、近代化されてゆく反面、どんどんダサくなってきていると思う(私にとってのダサさは没個性なのデス)。

故郷だからこそ、きっと愛憎半ばするのでしょう、横浜に戻るたびに、心の中で、こんなところ嫌いだ!と叫ぶ自分と、妙に身体の細胞が懐かしがる自分がいるのです。

しかし、崎陽軒のシウマイには、まったく愛着を感じない私ですが、なぜか、サンマー麺の味には郷愁を感じるんですなぁ。

これを食べると、どーでもいいことだけど、俺はやっぱり最後はこの土地に戻ってきて骨をうずめるんだろうなぁという妙な予感と奇妙な安心感を感じるのです。

記:2005/04/18

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