月と専制君主/佐野元春
ブリュ? ボヘミア?
佐野元春の5枚目のアルバム『カフェ・ボヘミア』。
このアルバム、好きなんだけど、自分の中では評価が微妙で、いい曲も多いんだけど、そこまで露骨にスタイル・カウンシル、スタイル・カウンシルしなくてもいいんじゃない?という思いもある。
ジャケットの白いコートは彼らへのオマージュという言葉で片付けられるにしても、《シャウト・トゥ・ザ・トップ》な《ヤング・ブラッズ》に関しては、うーん、ちょっと露骨すぎませんか?と思ったものだ。
フランス的感性
もっとも、この『カフェ・ボヘミア』には、当然のことながら、いい曲も収録されている。
私は特に《月と専制君主》が大好き。
月と「スッポン」ではなく「専制君主」。
なかなか元春流のセンスがあらわれているタイトルだが、この曲は歌詞もなかなか良い。
これは元春的感性というよりも、フランス人的感性を元春流に消化し吐き出したような感じがする。
一言でいうと、人は人、自分は自分。つまりマイペースであるということ。
サビの一節がこれを象徴している。
川は流れすべては繰り返す/君は君/かけがえなく
記憶が曖昧で申し訳ないのだが、佐野元春が『カフェ・ボヘミア』を発表した前後に、坂本龍一のラジオ番組、たしか『不思議の国の龍一』だったと思うが、これにゲスト出演した際、「フランスでは、隣の区画でテロかなにかでビルが爆破されても、恋人たちはキスをしつづけている。テロはテロ、自分たちは自分たち。すごい個人主義の国だなと思った」というようなことを話していた。
川は流れすべては繰り返す/君は君/かけがえなく
この歌詞を聴くたびに、私は佐野元春が坂本龍一のラジオ番組で語っていた内容を思い出す。
そして、このサビの箇所の歌詞が好きだ。
くわえてこの歌はコード進行も美しいんだよね。
すごく流れが美しい。
このコードがうつろいゆく流れを聴いているだけでも満足してしまえそうだと常々思っていた。
DTMソフトで打ち込み
もしかして歌がなくても、おそらくオケだけでも聴けるのではないか?
そう思って打ち込んでみたのが、このオケだ。
打ち込んだのは、たしか1998年頃。
先日、部屋の隅っこでホコリをかぶっていたハードディスク内臓のMTRをいじっていたら、録音されていた音源が残っていた。
ちょうど、Windows用の『Singer Song Writer』というDTMソフトを買ったばかりの頃で、操作方法を覚えるための練習もかねて打ち込んでみようと思ったのだ。
なんだかパソコンの処理能力を超えてしまったのか、16ビートを刻むタンバリンの音色がヨレてしまっている箇所もあるけど、おおむね、原曲の雰囲気、というかこの曲の美しい響きを確認することが出来て、個人的には満足している。
DTMの際いつも迷うのが、たくさん用意されているピアノの音色なのだが、私は重厚な響きがするピアノよりも、ホンキートンクピアノのように軽い音色、場合によっては少々歪みの要素が入った成分の音色が好きみたい。
そういえば数年前に、佐野元春がセルフカバーの《月と専制君主》を発表したね。
こちらも好きだけれど、私はやはり1989年の『カフェボヘミア』に収録されているバージョンのほうが洒落っ気があって好きだな。
記:2015/09/29