疲れたときのソロピアノ

      2021/12/27

さかもとりゅういちがピアノ弾いてるでしょ。
仕事中にきくと「ホッ」とするのにゃん。
疲れたときに、おすすめの曲は??
~たむたむ社長

身も心もクタクタに疲れた時。

そんな時は、思いっきり賑やかな音楽を聴いたり、飲み屋でマイク片手に大声で騒ぐという逆療法もあるにはあるが、深夜帰宅して書斎で一人もの思いに耽っているようなシチュエーションも時にはあるわけで、そんな時に私が聴く音楽は決まってピアノソロだ。

身も心もクタクタに疲れた時、それは一人になりたい時でもある。

音楽を奏でる相手方の人数も少なければ少ないほど良い。出来るだけシンプルな編成、それでいて余計な想像力を刺激しない演奏、だけどチープなBGMはお断りだ。

だからピアノソロ。

ソロだからといってあまり流暢でやたら音数の多いピアノも勘弁して欲しい。立て板に水でこちらに一方的に話しかけられても疲れに拍車がかかるだけだ。

できるだけ、音数は削ぎ落としたシンプルな曲、あるいは演奏。

たむたむ社長は、さかもとりゅういちのピアノに触れているが、実は私もさかもとりゅういちの『Coda』を真夜中によく聴く。

『戦場のメリークリスマス』のサントラ曲のピアノ版。

不思議と深い気分になれる。特にラストの2曲の「Japan」と「Coda」。この2曲はピアノソロではないが、私はこのアルバムの白眉だと思っている。

美しすぎる。

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次に、セロニアス・モンクの『セロニアス・ヒムセルフ』。

これもよく聴く。

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>>セロニアス・ヒムセルフ/セロニアス・モンク

私はセロニアス・モンクは大好きで、アルバムもたくさん聴いたが、このアルバムだけはとっつきにくくて良く分からなかった。

まるで禅問答のようなピアノ。

同じモンクのソロピアノなら『ソロ・オン・ヴォ-グ』や『アローン・イン・サンフランシスコ』の方が親しみやすくていいや、と思っていた。

ところがある日突然、この『セロニアス・ヒムセルフ』が身体中に染みてきたのだ。

いつのことだったのかは正確には覚えてはいないのだが、多分5~6年前ぐらいのことだ。この一件以来、私はこのアルバムの虜になってしまった。

一音一音、ポツンポツンと、まるで竜安寺の石庭の石のように時間の中に一見無造作に、しかしその実、したたかで完璧な計算に基づいて配置される音。

疲れつつも昂っている神経を朴訥なピアノが少しずつ沈めてくれる。ラストの1曲のみコルトレーンとのデュオなのだが、この曲に達する頃には、気分はもう哲学者になっている。

このアルバムには、バーボンのようなアルコールが当たり前に似合うのだが、ここはストイックにコーヒーと共に過ごしたい。

それから菊池雅章の『After Hours』。

《Bye Bye Blackbird》、《My Favorite Things》を始めとした有名曲が、これ以上は無いというぐらいのゆっくりとしたテンポで奏でられてゆく。

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いや、テンポがどうのこうのという世界ではもはや無い。彼は時間と曲をピアノで溶かしているのだ。恐ろしく悠久な時間感覚を味あわせてくれる。

それでいて、気分はしっかりと地上に足をつけている。

最後に、村松健の『カレンダー~ぶどう畑のぶどう作り~』。

素朴で朴訥なピアノ。

村松健のハミングが多少気になるが、慣れると、この声あってこその演奏なのかな?とも思えてくるから不思議なものだ。

このアルバムも私にとっては『セロニアス・ヒムセルフ』同様、すぐには良さの分からないアルバムの一つだった。ところが何度も聴くうちに、やはり染みてきた。

人々の誰もが持っているはずの、古き良き素朴な原風景が、少ない音数で見事に切り取られている。時折涙腺が緩むので注意が必要だ。

懐かしい故郷、そして土の香り。

上記4枚のアルバムを疲れた時に私は良く聴きます。

取り敢えず今回はピアノソロだけに絞ってみました。特徴はいずれも、意識が天空に飛翔する音楽でも気分がトリップする音楽でもありません。むしろ意識はしっかりと大地を踏み締めている。

だから私はキース・ジャレットやジョ-ジウインストンのピアノソロはあまり好まないし、聴く気はおきない。少なくとも深夜の疲れている時分には。

記:1999/04/26

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