タフタフ live in 六本木Back Stage 2002/08/25
2016/02/01
2002年8月25日の日曜日、六本木にあるバックステージで、「タフタフ」のライブをやった。
結論から言ってしまえば、「タフタフ」史上(?)もっとも盛りあがったステージとなった。
ギターとヴォーカルの夕香嬢は、昔から、どのようにしたら、いかに楽しく、いかにお客さんに楽しんでもらい、かつステージを盛り上げる内容にすることが出来るかを常に考えている人だったが、ついに彼女の理想が現実となって実を結んだ、そんな感触のステージだった。
「タフタフ」は、結成してから8年近くの歳月が流れているが、途中のブランクの期間も長い。
私の結婚&引っ越し、そして仕事環境とやりたい音楽の変化。同じく彼女も結婚&引っ越し、仕事の都合で随分と長い間活動を停止していた。
その間、私はジャンルもフォーマットも違ういくつかのバンドで練習をしたりライブをしたり、また自分なりに少しずつ音楽とベースの勉強をして「音楽力」の向上に努めていた。
夕香嬢も同様に、いや、それ以上に、ブランクの間は精力的に音楽の勉強と活動をしていたようだ。
なにせ、仕事でヨーロッパと日本を行き来しながらキチンと主婦業もこなし、なおかつゴスペルのグループを率いて毎週末は軽井沢の教会でゴスペルを歌い、そのためには毎週最低一回はゴスペル・グループのスタジオ練習と、ゴスペルの先生からのレッスンを受けている生活を繰り返していたのだから。
さらに、歌だけではなくギターの腕も磨きたいという思いから、週一回はブルースギター教室に通ってもいる。
一体、いつ寝ているんだろう?と思うほど精力的に活動しまくっている彼女。
最近は、その努力が実ってか、日本のゴスペル界のゴッドマザーと呼ばれている亀渕友香のアルバムに参加したりもしている。
だから久々に「タフタフ」活動を再開したとき、私としては以前の自分よりは数段バージョンアップして臨んだつもりだったが、夕香嬢のバージョンアップっぷりのほうが、二枚も三枚も上手だった。
以前は鋭いシャウトも持ち味の一つで、曲によってはジャニス・ジョップリンにそっくりな声を垣間見せることすらあったのだが、数年ぶりに再会した時の彼女の歌声は、シャウトは一切無しの“しっとり系”に変化していた。しかも、特に力まずにしっとりと歌うだけで、聴衆を引き込むだけの力を手に入れていた。
そんな実力の持ち主が、私のベースを今だに気に入ってくれ、出来るだけたくさんライブをやろうと言ってくれているのは、世界の七不思議の一つだと思う。
私の「タフタフ」でのベースは、その時の気分で、どんどんとベースラインを変えていってしまうのだから。
そこが良いのかどうかは不明だが、特にベースに関しては好きに弾いて良いようだし、ベースに関しての注文は、これまでにただの一度もつけられたことが無いので、まぁ、この調子で弾いていれば良いのだろう、と勝手に納得している。
今回演奏した曲は、以下の5曲。
ミー・アンド・ボビー・マギー
キャント・アフォード・トゥ・ルーズ・マイ・マン
遠くへ行きたい
ホワッツ・ゴーイン・オン
スタンド・バイ・ミー
マーヴィン・ゲイの《ホワッツ・ゴーイング・オン》は、初めて人前で披露した曲だが、それ以外の曲は既に何度かライブで演奏している曲。
「ホワッツ・ゴーイング・オン」は、私が演ろうと提案した曲だ。
メロディ良しの、ベースラインが格好良く、なおかつ弾いてて楽しいという三重丸の曲だからだ。
しかし、当初演ろうと私が提案したときの彼女の回答は「まだ自分を出して歌うことが出来ない。今の自分が歌ったらマーヴィン・ゲイの真似になってしまう」という返事だった。
うーむ、残念。
私がこの曲を演ろうと提案したのは、たしか今年の5月か6月のことだった。
ダメもとで、8月の上旬になってから、もう一度「やっぱりマーヴィン・ゲイ演ろうよ」とお願いしたら、あっさりと「いいよ」の返事。
どうやらギターの練習もしていたようだし、自分なりの節回しも発見したようだ。
ただし、原曲のキーだと高すぎるので、EをGのキーに転調することになった。
ベース的には、原曲のキーよりもGのほうが圧倒的に弾きやすいということを発見(笑)。勢いづいてステージ上では思いっきり弾きまくった。
ちょっと前までは「自分にはまだ早い」と言っていた曲を敢えて今回歌う気になったのは、どうも、ニューヨークのテロのことを思い出したかららしい。
ワールド・トレードセンタービルに飛行機が突っ込んだのが、昨年の9月11日のことだったが、彼女はまさにその日にアメリカへ飛ぶ予定だったらしい。
現地でのゴスペル修行。
しかし、あの事件のために飛行機は欠航となり、結局行けずじまいになってしまった。
そのときのやりきれない思いを、ベトナム戦争のときに歌われた《ホワッツ・ゴーイン・オン》に託して歌う気になったらしい。
出来は上々だった、と思う。
マーヴィン・ゲイとはまた違った世界を、まったく奇をてらわずに作り出せたような気がする。
しかし、それ以上に良い出来だったのは、ラストの「スタンド・バイ・ミー」だった。
私はひたすら、“あのライン”を繰り返して弾くだけだったが、そのベースラインに乗っかって、MC、そして少しずつ歌が入り、段々と盛り上がってゆく様は、後から見ていても圧巻だった。
メロディも少しずつフェイクしてゆき、客席の合掌にハモりを加えながら、どんどんと歌がヒートアップしてゆく様は、まさにゴスペルそのものだなと思った。
それも、彼女が一人で客席をコントロールして盛り上げてゆくのだから、大したものだ。私は彼女の後ろで、ヌボーっとベースラインを弾いているだけ(笑)。
お客さんの何人かが、彼女が率いるゴスペルチームの人達だったことも幸いした。ゴスペルで鍛えた喉で、まるで店中に響き渡るような合掌が沸き起こり、さらに夕香嬢がその合掌にハモリをつけたりカウンターメロディを取ったりしている。
演奏もどんどんと白熱してきて、なかなか終わらず、一旦終了はしたものの、すぐに「ワンッ!トゥー!スリー!フォー!」のかけ声で再び再開。
大きな拍手の渦の中で演奏がようやく終了した。
ライブの盛り上がりは、演奏者の人数の問題ではないということは重々承知はしてはいるが、それは「頭」で理解していただけの話。今回は、たった二人のシンプルな編成でも、ここまで客席が盛りあげられるのだということを体験として理解することが出来た。
アフター・アワーズは、お客さんのゴスペルチームたちがステージにあがって、見事なチームワークのゴスペルを披露してくれた。
そのうちの一曲の賛美歌に、私もウッドベースで加わり、あたかも男性の声を担当しているつもりでアルコを弾いたが、しっくりと歌声の中に溶けこみ、弾いていてとても楽しかった。
さて、そんな夕香嬢だが、「今度こそのゴスペル修行」で現在はロスにいる(はずだ)。
今月末には帰国する予定だが、どのようにパワーアップして戻ってくるかが今から楽しみ。
そして、帰国してすぐに「タフタフ」のライブがある。
彼女ばかりが成長していて、当の私は置いてけぼりをくらわないよう、もっと精進を重ねたいものだ。
記:2002/09/16(from「ベース馬鹿見参!」)