タクシーに乗った私を、かけ足で追い越した息子
2015/05/22
息子は3拍子が苦手なようです。
ヤマハ音楽教室に通っていた頃の幼少時の自分を振り返ると、私の場合はどちらかというと4拍子の曲よりも3拍子の曲のほうが得意だったのですが、息子はどうやら、そんな私とは正反対のようです。
4拍子の曲だとフィーリングをつかむのが比較的早いが、3拍子になると
「いち・にぃ・さん・いち・にぃ・さん」
のフィーリングが体内クロックに刻まれていないからか、どうも左手のリズムキープが出来ていない。
つまり、右手のメロディに釣られ、引っ張られてしまうんですね。
「ズン・チャッチャ/ズン・チャッチャ」
この伴奏がキープ出来ないのです。
右手の符割に誘われて、メロディと同じタイムで左手の和音を弾いてしまう。
これはひとえに練習不足です。
昨日はヤマハ音楽教室の日でしたが、行く前に課題曲のチェックをしたところ、3拍子の弱点を発見しました。
今までの3拍子の曲は、このようなリズムの乱れは特に認められなかったのに、今頃になって気がついたのは、きっと右手のメロディの符割が左手の符割から独立してきたからなのだと思います。
左手が四分音符でリズムを刻み、右手のメロディも四分音符。あるいは2分音符。
これだったら、両手が同時のタイミングで鍵盤を押せば良いわけだから、難しくありません。
従来の課題曲はこのようなメロディがメインでした。
ところが、今回の《ワルツ》というそのまんまなタイトルの課題曲は、付点四分音符の多い曲なんですね。
「付点四分音符+八分音符」で構成されたメロディがこの曲の骨組み。
つまり、「ターッタ」と2音を奏でている間に、きちんと左手は2泊を刻めているか、刻めないかが、この曲攻略の分かれ目となるわけですね。
おそらくヤマハの意図もそこのところにあるのでしょう。
右手と左手の符割りの独立というところに。
3拍子が得意な私からしてみれば、このような符割の曲で苦労した記憶がないので、「なんだこんなのカンタンだろ」と出来ない息子の理由や気持ちがよく分からないのですが、それでも、この曲のよく出てくる符割の構成を分析すると、先述したとおり、右手と左手の動きの独立を目指しているという意図を感じるのです。
つまり、意図的に同じような符割のメロディが曲中に散見される曲を課題曲とすること自体、まだこの段階においては右と左のリズム面においての完全独立が出来ていない生徒が多いという前提がきっとあるのでしょう。
だから、この課題曲は、ある意味、重要な目的が組み込まれた曲でもあり、これをクリアできないと、この先の躓きはもっと大きくなることは火を見るよりもあきらか。
言ってみれば掛け算の九九を完全に覚えないまま、3年生、4年生になってゆくようなもの。
だから、この課題曲は完全にモノにする必要を感じた私は、適当に誤魔化そうとする息子に渇をいれ、片手練習をメトロノームに合わせてビッシリとさせました。
「出来ないよ」とダラけ気味になる息子のわき腹に廻し蹴りを入れ、顔面にパンチを食らいこませ(もちろん軽くですが)、べそをかき、鼻水を垂らしながらもピアノの前に座らせ、延々と右手→左手→両手を繰り返させました。
といっても、音楽教室の授業が始まる時間も迫ってきたので1時間ほどしか出来ず、1時間みっちり練習したところで、3拍子の基礎ビートが身体に刻まれるはずもなく(それでも最初に比べるとだいぶマシにはなってきたが)、中途半端な状態で教室に行きました。
息子の出来なさっぷりに、ちょっと頭にきていた私は、罰として「教室まで自転車使うな、走れ!」と教室までダッシュさせました。
雨が降ってきました。
傘を差して下駄を履いて走るのが面倒になった私は、タクシーを拾いました。
子供は走らせておいて、親はタクシー。
鬼だなぁ(笑)。
ちょうど道のりの半分あたりの場所で、一生懸命走る息子を尻目にタクシーはスイスイと息子を追い越してゆきました。
もちろん息子は、そのタクシーに私が乗っているとは気付きません。
必死に走っています。
タクシーのスピードに比べると、息子の速度のなんと遅いことか。
もっと早く走れよバーカと心の中で私は思っておりました。
教室の前でタクシーを降り、腕組をして「はぁはぁぜぇぜぇ」と息をきらしてやってきた息子に向かって「遅いぞ!」と一喝してやろうと私はタクシーの中でニンマリしていました。
鬼だなぁ(笑)。
ところが、ところが。
教室の近くに大きな交差点があるのですが、そこを曲がるために信号待ちをしている間に、後方からやってきた息子が私が乗っているタクシーを追い越していったのです。
軽やかに。
しかも、停まっているタクシーから見ると、結構、凄いスピードなんです。
あらら、息子よりも早くタクシーで着いて
「遅いぞ!」
と言う私の計画が台無しじゃん。
「ちょっと運転手さん、急いでよ」
「急いでって言われても、信号が青にならないことには…」
「じゃあ、ここで降りるよ」
「ここで降りるのは危ないですよ、もう少しで信号も変わるから待っててくださいよ」
そんなやり取りを繰り返しているうちに、信号がようやく変わり、音楽教室の前まで。
私がタクシーから降りた時には、息子はすでに教室に到着していました。
「父上、遅かったね」なんて涼しい顔しています。
しかも、1キロちょっとの道のりをダッシュしていたはずにもかかわらず、全然呼吸は乱れていません。
こいつ、滅茶苦茶走るのが早いんじゃないのか…、といまさらになって気付く私。
ズルをしてタクシーを利用したのに息子に負けるとは、なんだか親として非常に情けない思いにかられました。
廻し蹴りを入れた罰ですかね…?
嗚呼、なんだか、めちゃくちゃ自己嫌悪であります。
しかし、とにもかくにも、3拍子の練習は、続けさせますがね。
記:2005/10/23