テッセラクト/試写レポート
2022/07/14
『テッセラクト(四次元立方体)』は、日本制作のタイ映画だ。
原作はイギリスの同名小説、プロデュースは日本のスタッフ、監督は香港人、主要キャストはイギリス人。
そして、スタッフとキャストはタイ人で、サウンド&プロデュースチームは日本人という、あまり聞いたことのないような、異色の多国籍コラボレーションによる作品となっている。
アジア発信の“ハリウッドと互角に渡り合う新しい試みの映画、そしてビジネス形態。
役者はもちろん実力派だし、スタッフチームも一流、しかしコストは1/5にまで抑えることに成功したという本作。
なぜ、これほどのコスト削減に成功したかというと、ギャラを抑えたから。
やはり、人件費が一番お金がかかる費目なわけで。しかし、正確に言うと、単に抑えたのではなく、「公開後の興行成績に合わせて一定の割合で追加する」というシステムをとっているのだとか。
こういった試みも類を見ない試みで、今後は、新しいエンターテインメントのビジネスモデルとなるかもしれない。
あまり知られていない事実だが、タイの映像スタッフのレベルはかなり高い。
ある代理店のクリエイターの話によると、とくに撮影に関する現場のノウハウの蓄積がスゴイことと、照明、とくに夜間のシーンの撮影技術には群を抜くものがあるという。
それに比べると日本の映像界は井戸の中の蛙のようなもので、井戸の中でケロケロとやっている間に、近隣のアジア諸国の映画のスケールやパワーで負け、撮影技術のクオリティもとっくに追い越されてしまったというのが実情のようだ。
蛙じゃなくて、昼寝してる間にカメに抜かれたウサギのようなものか。
日本がかろうじて勝てるものといったらアニメーションとCGの技術ぐらいなものだという。
そういえば、最近のタイ映画の進出は目覚しい。
最近の『アタック・ナンバー・ハーフ』なんかがその良い例だが、日本ではほとんど馴染みのなかったタイ映画も、2001年頃の『6ixtynin9』を皮切りに『デッドアウェイ/バンコク大捜査線』、『ナンナーク』などと、タイ映画の公開がここのところ増えている。
このことからしても、タイの映画は着実に力をつけてきつつあることは確かだ。
さて、“テッセラクト”とは、四次元立方体のこと。
この作品の謳い文句を引用してみよう。
「一次元は二次元の展開図である。二次元は三次元の展開図である。ならば三次元は、四次元の展開図(テッセラクト)となる。視覚化(ビジュアライズ)せよ。」
なるほど、分かったような、分からんような。
でも、ちょっとソソられませんか?
題材はシンプルだ。
ドラッグの売買にまつわるドタバタ。
テーマだけを取れば、ありふれたといっても良い犯罪映画だ。
ただ、試みとして新しいことは、登場人物の時間軸を少しずつずらし、観客は、一つ高い次元から人物の関係を見下ろす内容となっていること。
つまり、大袈裟に言うと鑑賞者は、「神の視点」で出来事を俯瞰することが出来るということだ。
ラストの数分は、かなりインパクト。息を呑む。
殺伐とした映像、さらに音がクリアでエッジが立っているので、インパクトのある映像をさらに引き立てている。
映画に同化している人は、きっと、うだるような暑さと、正常な判断力を失うほどの湿度を感じているに違いない。そのような高音多湿で朦朧とした脳の中に、“パーン!”と乾いた銃声が大きくこだまして、確実に我々の細胞をざわつかせること請け合いだ。
観た日:2004/04/14
movie data
製作年 : 2003年
製作国 : イギリス=タイ=日本
監督 : オキサイド・パン
出演 : ジョナサン・リース・マイヤーズ、サスキア・リーヴス、アレクサンダー・レンデル、レナ・クリステンセン ほか
配給 : アーティストフィルム、ファントム・フィルム
公開 : 6月19日(土)よりロードショー
記:2004/06/10