時不知
週末によく家族で食事をしに行くイタリアン・レストランが近所にある。
常連で顔なじみなので、毎回行く度に新しいメニューや、入荷したての旬の素材などを紹介してくれ、我々も店のメニューは一通り味わっているので、なるべくオススメの料理をオーダーするようにしている。
先日のことだ。いつものようにその店に足を運んだら、「ラッキーですね!たった今入荷したばかりの魚があるんですよ!」と支配人が嬉しそうな顔で語りかけるではないか。
トキシラズ。
鮭なのだそうだ。
幻の魚ですよ、中々手に入らないのでいかがですか?
幻の鮭。
確かに鮭といえば思い浮かぶ季節は秋だし、この季節(5月)から夏にかけては、あまり「鮭」を食べた記憶は無いような気がする。
季節はずれだから、"時"を知らず、なんですかね?
尋ねてみたら、なかなかイイ線行ってますねぇ、と煽てられた。
説明を聞くと、こうだ。
鮭は、秋になると日本の川に戻ってくる。
産卵するためだ。
通常、我々が食べている鮭は秋に捕られた鮭だ。
つまり、産卵のために戻ってきたところを捕獲された鮭が食卓にのぼるわけだ。
この時期の鮭の身には脂がのっていない。産卵のために川を遡るため、体力を消耗してしまっているからだ。
我々が普段「新巻鮭」と称して食していた鮭は脂がのっていない秋の鮭のことだ。
しかし、まれに5・6月の沿岸を回遊している鮭がいる。
この鮭は産卵前の体力の充実期ゆえに、秋鮭と違って脂ののりは最高、丸々と太っている。
しかし、滅多に捕れないので昔から珍重されていた鮭、それが「トキシラズ」なのだそうだ。
自宅に戻っていくつかのページを検索してみた。
なるほど、漢字で書くと「時不知」。昔の漁師が「時を知らない鮭」ということで、そう呼んでいたのだそうだ。
時を知らない。季節はずれのハグレもの……。
鮭の切り身の通販ページなどを覗くと、秋鮭の2倍近くの価格だったので、それだけの価値はあるのだろう。
このような珍しい鮭があるということは、この時初めて知ったし、好奇心をそそられたので、当然オーダーしてみた。
オリーブオイルと、本当に控え目な塩コショウ。
素材を生かすためか本当に最小限の味付けしかされていない時不知がオードブルで運ばれてきた。
厚めの切り身に、たっぷりとのった脂が光っている。
味の方はというと、とても旨かった。
北海道に行った際の土産は、新巻鮭を一本購入するよりは、時不知の切り身の方が良いのではないかとも思ったし、そして何よりまた食べたいと思った。
時不知、かなりオススメです。
記:2001/05/16
関連記事
>>鮭児