ラジオスターの悲劇/バグルス
トレバー・ホーンがベーシストだなんて、バグルスの《ラジオスターの悲劇》を演るまでは知らなかった。
セックス・ピストルズのプロデューサー、マルコム・マクラーレンと同様に、音楽とは関係の無いところでの、ショッキングな話題の仕掛け人のイメージが個人的には強かったのだ。
彼がプロデュースした初期のアート・オブ・ノイズのイメージが強かったのかもしれない。
アート・オブ・ノイズの《ビート・ボックス》の発表の記者会見か何かの際には、メンバーは登場せすに、ダンサーだけがレコードに合わせて踊っているだけだった、といったような話をどこかで聞きかじっていたので、そのような「仕掛け人的」なイメージが個人的に植え付けられていたのだろう。
学生の頃、短期間だがベルベット・アンダーグラウンドが好きだという女性とバンドを組んだことがある。
打ち合わせの際、彼女が真っ先にコピーしようと持ってきた曲がバグルスの《ラジオスターの悲劇(Video Killed The Radio Star)》。
この曲が入っているアルバム、『ジ・エイジ・オブ・プラスティック』自体が、とてもキャッチーで、気持ちの良いノリのゴキゲンなアルバムなのだが、2曲目の《ラジオスターの悲劇》のキャッチーさとゴキゲンさは特筆に値する。曲目は知らなくても聴いたことがある人はきっと多いに違いない。
少し前も、この曲のカバーが街中に流れていたし。
この曲のベースだが、サビのベースラインは8分音符のルート弾きなので、さほど難しくはない。
しかし、Aメロの跳ねるような、唸るようなベースラインのノリを出すのがとても難しかった。
で、このベースはトレバー・ホーンの演奏だという。
へ?プロデューサーだけじゃなかったんだ、うまいじゃん、このベース!てな感じで、ちょっと驚いた。
聞くところによると、彼はオーケストラでコントラバスを弾いていたこともあるらしい。とてもそういう風には見えないが。
ボコーダーを通しているのか、イコライザーでわざと「音痩せ」をさせているのかは分からないが、Aメロの軽やかなヴォーカルに、あのベースライン。この二つが満たされないと「ラジオスターの悲劇」ではなくなってしまう……。
レコードに合わせて何度ベースの練習をしたことか。
結局、このバンド、短期間でライブもやらずに解散してしまったので、スタジオであわせた回数は、ほんの数えるくらいのものだったのだが、Bメロになると急にノリノリになるのだけど、Aメロを弾く自分のベースの自信の無さっぷりは情けなかった。
このバンドが解散して以来、この曲のベースは弾いていない。
先日、久々にバグルスのアルバムを取り出して聴いてみると、手が自然にベースに伸び、いつの間にかCDに合わせて弾いていた。
Aメロのベースラインは相変らずブルルンと唸っている。かつてのベースを始めたての頃の自分よりは、少しはベースを弾くことに関しての自信はついているはずなのだが、それでも、全くといって良いほど、トレバー・ホーンのベースのノリを捉えていない自分に気がついた。
低音が逞しく、そして太いゴムがブンブン唸っているような、あの感じは、今の私にはとても無理だ……。
記:2001/07/31(from「ベース馬鹿見参!」)