聯合艦隊司令長官 山本五十六/鑑賞レポート
山本五十六
史実と違うというツッコミを入れはじめたらキリがないのだろうし、私は歴史研究家でもないので、そのへんはカット。
ただ、言ってしまえば、私が抱いていた山本五十六像とは随分違った山本五十六さんでした。もちろん、山本五十六に抱くイメージは人それぞれなので、こういう人物像があっても良いと思います。
私が抱いていた山本五十六という人物は、もっとしたたかで飄々としていて食えない人というイメージ。ルックス的には南雲忠一を演じた藤田進のほうが近いかもしれない。
役所広司が演じる山本五十六は、誠実で温厚な人柄で、感情はあまり外には出さずに抑え込むところがあり、現状認識と分析力があって、そして人間的には懐の深い人物という造形。それはそれで悪くないと思うし、役所広司の演技も良かったと思う。
きっと、平成の世のサラリーマンが求める理想の上司像なのかもしれません。
部下の失敗は自分のせい。部下の失敗は責めない。周囲にも「南雲を攻めるなよ」みたいな根回しも怠らない。なんて素晴らしい上司でしょう。「ゆとり世代」サラリーマンは、こういう上司のいる会社で働きたいのでは?
せっかく、昭和の匂いよりも平成の匂いが漂う軍人さんを映画として世に放つのならば、史実ではなく、フィクションにしたほうが良かったのかも?
「こういう立派な軍人がいました」と、過去の日本とよく似たパラレルワールドの日本に存在する架空の軍人という設定にしたら、すごくよく出来た作品になったと思うんですよね。
映画そのものは、退屈せずに、一言でいえばサクッと観れました。しかし、サクっと観れた反面、残るものも何もなさそう。戦争映画特有の「引っかかり」というものがないんですよね。あればいいというものでもないけど。
そのあたりが、良くも悪くも現代風といえば現代風なのかな。
南雲忠一
あと。
私が抱いてた山本五十六像とはかなり違った映画でもあるけれども、同時に私が描いていた南雲忠一像ともかなり違っていた映画でもありました。
なんだか、真珠湾攻撃もミッドウェイ海戦も、作戦展開のツメの甘さは、彼の臆病な気質や優柔不断な性格のせいだということに集約されてしまっているところが「本当にそうなのか?」という感じはしましたね。
特にミッドウェイ海戦の爆弾と魚雷換装のところあたり、私が習った内容とは違う気がしたんだけど、まあいいや、日本に似た別世界の話だと思って鑑賞すればよいのだから。
戦闘シーン
CGは綺麗でしたよ。
とはいえ、ものすごく興奮するほどの戦闘シーンもなかったのですが。比較的、淡々と。
フラットに「戦闘がありました」というような描写でした。戦闘の結果や内容に関しては、どちらかというと演技やセリフで鑑賞者に伝えているという感じ。
いわゆる「大河ドラマ的手法」ってやつ(笑)。
そのあたりが、『男たちの大和』とは大きく違うところでしょうね。
もっとも、戦闘に関してはそれは最初から主眼に置いてはいないようなので、まあそれはそれで良いと思います。
一式陸攻
ひとつ評価したいのは、私が好きな一式陸功がとても美しく描かれていたことですね。
一式陸攻がもっとも美しく見えるアングルをきちんと抑えているようにも感じたので、もしかしたらスタッフには陸攻好きがいるんじゃないかなと思います。
陸攻ファン必見!とまではいいませんが(松本零士の『ザ・コクピット』の「音速雷撃隊」と「スタンレーの魔女」は必見ですが)、少しの銃弾ですぐに火がついてしまう線香花火のように切なく散っていく陸功の儚さは、プロペラがゆっくりと停止していく描写あたりで十分に感じることができました。
航続距離を稼ぐためとはいえ、防弾設備や装甲が貧弱な陸功に乗り、戦い、散っていった搭乗員の兵士さんたちには、いつも頭が下がる思いです。
ところで、サブタイトルの「太平洋戦争70年目の真実」って、結局なんだったんでしょう?
愛人とのエピソードが、本妻とのエピソードに変わったこと……なんですかね?
movie data
聯合艦隊司令長官 山本五十六
2011年作品
監督:成島出
原作:半藤一利
脚本:長谷川康夫、飯田健三郎
撮影:柴主高秀
特撮監督:佛田洋
音楽:岩代太郎
出演:役所広司、玉木宏、柄本明、柳葉敏郎、阿部寛、吉田栄作、椎名桔平、益岡徹、袴田吉彦、五十嵐隼士、千葉哲也、佐々木勝彦、望月章男、北条隆博、河原健二、碓井将大、綱島郷太郎、黒沼弘己、管勇毅、渡辺邦斗、杉浦文紀、徳永淳、西岡秀記、柳浩太郎、工藤俊作、山田幸伸、片岡弘鳳、岸博之、坂東三津五郎、原田美枝子、瀬戸朝香、田中麗奈、中原丈雄、中村育二、重松収、橋爪淳、伊藤洋三郎、井上肇、平賀雅臣、山下徹大、尾関伸嗣、天田暦、塚原大助、五刀剛、大方斐紗子、伊武雅刀、宮本信子、香川照之
記:2014/05/29