電人ザボーガー/試写レポート
『電人ザボーガー』スタンダードエディション [Blu-ray]
昭和のB級テイストを正しく継承
正しくB級映画である。
突っ込みどころ満載の映画でもある。
しかし、チープなんだけども、いやチープさゆえに興奮度も倍増する映画でもあるのだ。
この感触は、昔のジャッキー・チェンやデブゴンたちによる香港アクション映画に近い。
安っぽくて、ショボくて、笑っちゃうような突っ込みどころが満載なのだが、それゆえに(だからこそ?)アクションシーンなどでは、血が滾るほどの興奮を味わえるのだ。
チープ、という言葉を繰り返しているが、映画「電人ザボーガー」に漂うチープさは、結果的なチープさではなく、自覚的なチープさだと感じる。
つまり70年代のアクションヒーローものの文脈を理解し、愛するがゆえに、このようなテイストを選択したに違いない、と私は感じた。
CG等を駆使し、ストーリーやキャラクター等の設定も今風にリニューアルすれば、現代的な作風の作品に仕上げることは、それほど難しいことではなかったはず。
そして、そのほうが「かつてのヒーローが、さらにカッコよくなって21世紀に蘇った」という現代テイストのリニューアル感を持たせることも出来ただろう。
しかし、おそらく井口監督は、それはツマラナイと考えたのだろう。ヘタにいじくるよりも、70年代的チープさを尊重し、あえてそのテイストを盛り込む路線を選択したのだと思う。
だから、今の目線で見ると、どうしても安っぽさやご都合主義の展開にクラクラしてしまう70年代ヒーローものに漂う「あの雰囲気」を、21世紀のスクリーン上に再現したらどうなるのかという一つの結論が、平成なのに昭和臭い『電人ザボーガー』なのだろう。
70年代のヒーロー活劇に心酔していたかつての少年たちが、かつての興奮を呼び醒ますに足る要素を随所に散りばめまくり、あえて前時代的な手法とテイストを自覚的に盛り込んだサービス精神には拍手をおくりたい。
70年代・ヒーローもののお約束
敢えてほとんどCGを使わず(変形シーンぐらい?)、実写、着ぐるみのスーツアクションにこだわる姿勢。ご都合主義なストーリー展開、冷静に考えれば、敵も味方も性格が破綻しまくった愛すべきキャラたちが繰り広げる痛快劇。
先ほど突っ込みどころ満載と書いたが、突込みシーンを数えれば、おそらく100を超えるかもしれない。しかしこれら突込みの要素は、結果的にそうなってしまったのではなく、観客から「おいおいそれはないだろう」と突っ込んでもらうためのスペースを自覚的に設けているとしか考えられないシーンやセリフ、展開なのだ。
そして、このチープさと突っ込みどころ満載を笑って興奮できるか、否かで、あなたの感覚と、感性の許容量が問われるのだ。
おそらくは、幼少時に仮面ライダーのシリーズや、ゴレンジャーなど初期の戦隊モノ、そしてリアルタイムでザボーガーを観て興奮した世代は、「そうそうそう、そうこなくっちゃ」と鑑賞しながら深く頷くことだろう。
この世代の人々は、70年代のヒーローモノ特有の文脈や展開が細胞に刻み込まれているに違いないからだ。
まず、主人公はいたって熱血でバカ(!)なことが多い。
なにか怪事件が起きると、
「うぉぉ、これはショッカーの仕業に違いないっ!(熱)」とか、
「許さん、シグマめっっ!(暑)」だ。
で、だいたい犯人は主人公の予想どおり、ショッカーだったりシグマだったりする(笑)。
また、主人公の思考パターンは、正義と悪の気持ちよいほどの単純な線引きがなされている。これに関しても映画「ザボーガー」には自覚的に取り入れているセリフやシーンを認めることが出来る。
また、ヒーローが“たまたま”温泉やスキーなどの旅行にでかけると、“たまたま”そこで悪の組織が悪だくみを展開しているといった展開も70年代ヒーローアクションならではの醍醐味だ。そこで“たまたま”悪事が発覚した悪の組織は、ヒーローの活躍によって作戦が潰えるのだ。
残念ながら今回のザボーガーには、“たまたま”地方で悪の組織と鉢合わせといったような展開はないが、タイミングの良い偶然や鉢合わせのようなシーンはある。
また、警察などの公的組織と協力体制を結んでいるヒーローの場合、必ず最初に現場にかけつけるのはヒーローだ。
悪の組織のアジトや作戦は、いとも簡単に発見されてしまうことが多く、これもヒーローもののお約束だ。
そして、現場にかけつけたヒーローが戦いはじめると、だいたい3分から5分ぐらい遅れてパトカーなど主人公の戦闘をバックアップする集団が登場する。
しかし、あまり支援になるほどの力は発揮しない。最初から最後まで活躍するのは、あくまで主人公だ。
これもヒーローもののお約束で、今回のザボーガーでもきちんと守られている。
また、悪の組織の怪人は、人間から改造されてサイボーグやアンドロイドになるケースが多いが、この悪者キャラは、改心したり、倒されたりすると、元の人間になぜか戻ってしまうこともある。このご都合主義的な設定もヒーローもののお約束。もちろん、今回のザボーガーにも……。
このような暗黙の了解事項を快く心の中に初期設定した上で見ると「電人ザボーガー」は滅茶苦茶楽しめる映画なのだ。
興奮した。
笑った。
どこのシーンでどう興奮し、どこのシーンでどう笑ったのか。
……書きたいっ!
でも書かない。
観てのお楽しみということにしておこう。
必ずしも私のツボと、ご覧になる方のツボは一致するとは限らないと思う。是非、ご自分の目で観た上で自分だけのツボを発見してニヤニヤして欲しいと思うのだ。
昔のヒーローが好きな人であれば、もう「そうだよ、そうだよ、そうこなくっちゃ」の連続なのだ。
是非、この「大雑把だが骨太な熱いヒーロー作品」を劇場で鑑賞し、「うおおおお!」と本宮ひろ志のマンガの登場人物のような口を開けて血液を沸騰させていただきたいと思う。
上に貼り付けた予告編の動画を見て「うおおおお!」となった人は(あまりのベタ&直球さに涙する方もいるに違いない!)、映画館へGO!
記:2011/09/06
movie data
監督・脚本:井口昇
企画・原作:ピー・プロダクション
キャラクターデザイン:西村喜廣
音楽:福田裕彦
出演:板尾創路,古原靖久,山崎真実,宮下雄也,佐津川愛美,デモ田中,岸建太朗,島津健太郎,佐藤佐吉,山中アラタ,石川ゆうや,松浦祐也,村上浩章,亜紗美,村田唯,泉カイ,谷川昭一朗,高尾祥子,木下ほうか,松尾諭,関智一,増本庄一郎,きくち英一,渡辺裕之,竹中直人,柄本明
観た日:2011/08/23