カフェモンマルトル

text:高野雲

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スリに遭った

      2016/03/11

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hikari

スリに遭った。

財布の中の札だけが抜かれていた。

およそ7~8万円の被害。

よし!これから東北へ旅行だ!と気張っていた矢先のことだった。

旅の始めにお金を失なったものだから、精神的なダメージが大きかった。

先日、私は息子と二人で旅行へ行ってきた。

何故、父と息子という野郎コンビでの旅行かというと、女房が前日より熱を出して寝込んでしまったからだ。

旅行を中止してもよかったのだが、今回の旅行の趣旨は、岩手に住む私の祖母に、まだ一度も会わせていない曾孫の息子を見せにゆくことだったので、この期を逃すと次はいつ祖母に息子を見せられるか分からない。

ここのところ祖母は足腰が弱り、入退院を繰り返しているため東京へは出てこれないので、こちらから出向かねば息子に合わせるチャンスがない。

息子は1歳2ケ月の乳幼児で(2000年8月現在)、当然オムツも取れていないし、1日に最低3回は哺乳ビンでミルクを与えなくてはならないので、母親無しでの旅は難しいかな?とも思ったが、幸い私によくなついてくれているし、最近は休日になるとよく二人で長時間出かけることもあるし、バンドの練習や自分のライブにすら同行させているので、まぁ大丈夫だろう、と判断して息子を私一人が連れて行くことにした。

大変なのが、荷物。

大量の紙オムツにミルクの缶、汗っかきな上に季節は夏なので、少し多めの着替えなどの「子供セット」をボストン・バッグに詰め込んだら、パンパンに膨れ上がってしまった。

生活用品は大きなカバン、財布や切符やデジカメや哺乳ビンとスティックタイプの粉ミルクなど使用頻度の高そうなモノは、リュックに詰め込んで荷造りをした。

東京駅へ向かう朝の地下鉄の中は、お盆前だとはいえ、通勤客の数もまだまだ多く、平日のラッシュほどでは無いにせよ、車内は適度に混んでいた。

当然座席には座れないし、網棚の上にも荷物も載せられる状態ではなかった。

この時の私は、背中にリュック、右肩にボストンバッグをかけ、右腕でつり革に掴まり、左腕で息子を抱きかかえているという状態。

今考えてみると、背中がまったくの無防備だった。

しかも財布は、背中に手を回せばすぐに取りだせるように、リュックのポケットの中に入れていた。

これがマズかったのだろう、恐らくこの時に抜かれていたに違いない。

東京駅に到着後、新幹線のみどりの窓口へ向かった。

行けなくなった女房の分のチケットを払い戻すためだ。

手数料の引かれた現金が払い戻され、背中のリュックのポケットに手を回し財布を取り出すと、妙に軽い。

中には一万円札と千円札が何枚もぎっしり埋まっているはずで、札の間にはレシートやらクレジットカードで買い物をした時の控えがランダムに挟み込まれているため、「ブタ財布」状態になっているはずなのだ。

慌てて中身を見ると、中身はカラ。

出かけの折、コンビニでおにぎりとサンドウィッチを買った時点ではパンパンに膨れ上がっていたハズの財布の中身がカラになっている。

幸いクレジットカードや銀行のカード類はそのままだったが、札束と領収書やレシートの類いがキレイサッパリ消えている。

一瞬目が点になった。

その場でかがみ混んで、荷物で一杯のカバンの中身をすべてを漁って調べてみたが、出てくるハズもない。

……やられた!!

落ち着いて、前日のお金を引き出した時から現在に至るまでを頭の中で順序立てて反芻して見たが、やはりお金は財布の中にしか入れていないし、地下鉄に乗る前にコンビニで朝食の買い物をした時は、その財布から千円札を取り出して払っている。

つまり、お金が無くなったのは「コンビニを出た後~東京駅のみどりの窓口に辿り着くまで」の間としか考えられない。

そうなると、やはり一番可能性が高いのは両腕が塞がっていた上に背中に気を配る余裕の無かった地下鉄の中で、としか考えられない。

警察や鉄道公安官に届けを出そうかと思ったが、発車時刻が迫っているのと、財布が盗まれたのならともかく、「中身だけが無くなりました」と届けても、信用してもらえなそうな上に、届けたからといって犯人が見つかる可能性はどう考えても無さそうなので、やめた。

ハッキリいって、泣き寝入りだ。

結局、払い戻された女房のチケット代で、車内での食事や、現地に着いてからのタクシー代は賄えたが、祖母の家を拠点として息子と二人で連休中は東北の色々な場所を毎日巡ろうという計画は断念、翌日には東京へ戻ることにした。

お金は銀行から引き落とせば何とかなることはなるのだけれど、旅の初っ端からこういうことがあると気分が萎えちゃうんだよね。

婆ちゃんに曾孫の孫を会わせた。
これだけの目的が達せられたことで良しとしよう、ということで。

それにしても、俺の財布をスったヤツは、今頃高笑いしているんだろうな。

「だって、あんたスキだらけだったんだから」と。

確かに、あの時の自分は、盗られても文句の言えない態勢と、財布の管理だった……。

犯人は、見つかることは無いとは思うが、もし見つかったとしたら、イスラム教の流儀に乗っ取り、泥棒は二度と悪事を働けないように、手首から下を斧で切断させていただきますので、そのつもりで。

斧がイヤなら、まぁ刀でもノコギリでも、ひき肉を製造する機械の入り口に、手の先を少し突っ込んでもらってもいいんですけどね。

しかしアタマに来るのは、犯人に対する怒り以上に、金額の問題でもなくて(それも大きいけれど)、スラれたマヌケな俺に対して、だね。

話しが突然変わるが、そういえば、昔イタリアでもスリにあったことがある。
幸いこのときは被害は無かったのだが。

・イタリアにはスリが多い。
・その殆どがジプシーだという。
・ジプシーは子供にスリをさせる。
・子供はたいがい2~3人のコンビでスリを働く。
・1人は、観光旅行者の前にいきなり立ちはだかり、新聞を広げる。
・もう1人は、観光旅行者が一瞬たじろいだ隙にポケットをまさぐる。

このような観光ガイド仕込みの予備知識はあったので、街を歩く時も気を引き締めていた。

それでも、ほんの一瞬気を抜いたスキに出てくるんだな。

ミラノのトラットリアで食事を終え、店を出たほんの一瞬の出来事。

店から出て、タクシーを拾おうと、ちょっとだけ(本当に一瞬)道路に目をやった。

遠くを見るので視線は高めになる。

タクシーを探している時って、自分の膝や腰って無防備になるじゃないですか。その一瞬のスキにジプシーどもが群がってきたんだよな。

女房が、「あっ!」と声を上げたので、視線を足下にやると、小さな女の子が2人、私の腰のまわりにいるではないか!

ビックリしたよね、だってほんの一瞬の間だよ。

一瞬上を見て、足下を見たら、小さな子供達が自分の腰の高さのところにいるのだから。

新聞紙は持っていなかったが、募金でお金を集めるような箱を私のお腹の高さまで彼女は(二人とも女の子だった)押し付けてきた。

その瞬間、私はジプシーのスリのテクニックの常套手段を思い出した。

きっと、この箱で視線を遮った隙に、ポケットの中をまさぐるに違い無い。

「いきなり何すんだ馬鹿野郎!!」
群がっている二人の女の子を振り払った。

勢いが過ぎたのか、二人ともコンクリートの地面に叩き付けられて、「アーン、アーン!!!」と火がついたように泣き始めた。

ちょっと離れたところで、彼女たちの母親であろう女性が私のことを恨めしそうな顔で睨んでいる。

イタリア語の出来ない私は、「あんたなぁ、小さな子供にこんなことやらせて恥ずかしいと思わないのかよ!!」と日本語で怒鳴った。

母親が何か一言喋ったかと思うと、地面に伏して泣いていた女の子二人は母親のところに駆け寄り、母親は彼女たちを抱きかかえるようにして、我々の場所から離れていった。

文章にすると長いが、ホンの一瞬の出来事。

だから、突き飛ばしたり怒鳴ってはみたものの、まだ私の中では「今のって、本当にスリだったのかな?」と疑問に思うぐらいで、女房に、「なんだかさぁ、悪いことしちゃったかなぁ? だって、今の女の子たち、結構カワイかったじゃん、ほら、ミキハウスのCMに出てきそうな女の子たちだったよねぇ」なんてマヌケなことを言ったぐらいなんだから。

ところが、女房が、なに悠長なこと言っているのよ、あなたのダウンジャケット見てごらんなさい、と言うので、改めて見てみると……、両脇のポケットとその周辺が、刃物でザックリと切られていて、中から綿がはみ出てきている。

一番下のボタンが切り落とされて、地面に転がっていた。

財布は、胸の内ポケットに入れていたので無事だった。もっともその場所は、背の低い彼女たちがいくら背伸びをしても届く高さでは無いのだが。

ヤツら、本当にスリだった。

すぐに突き飛ばしてよかった。そうでもしないと、たとえ財布は無事だとしても、上着の腰のポケットの周辺がもっとズタズタにされていただろう……。

日本人旅行者が海外で愛用している、ウエスト・ポーチをしていて、その中に財布を入れていたら完全にアウトだったな、と思う。

それにしても、よくもまぁ、一瞬の間隙を突いてここまで切り裂いてくれたな、と感心すると同時に、少し怖くなった……。

今回の件、そしてイタリアでの出来事をも合わせて考えると、スリに遇わない方法、いや、遇ってもお金を盗られない方法はただ一つしかない。

それは、「自分でも取り出しにくいところに、取り出すのに少し手間のかかる場所に財布をしまう。」

これに尽きると思う。

油断をしない、注意をする、常に緊張感を保つ。

これは無理だと思う。

こういう状態の人にはスリは寄ってこない。

しかし、そういう人でも絶対に気を抜く瞬間はあるはずだ。

私だって、ミラノの街を歩く時は、かなり周囲に気を配ってあるいていたつもりだ。

しかし、ほんの一瞬遠くを見た瞬間に2名の子供のジプシーの接近を許してしまっている。

自分は周囲への警戒は抜かりない、だから取り出しやすい場所に財布を入れてもいいんだ。

こう考えている人の一瞬の気の緩みこそ一番危険だと思う。

外出中の最初から最後まで周囲への警戒を抜かりなくする、これはこれで結構なことではあるが、どんな人間だって気が緩む瞬間はあるし、第一、四六時中気張っていたら疲れてしまうではないか。

スリがカバンの中に手を入れた、しかし財布に辿り着くまでに時間がかかる。

仮にスリにまさぐられている時は気がつかなくとも、何も盗られていなければ、それはそれで済むわけだから、「被害の無い状態こそ最上」と考え、「気」や「精神」の問題以前に、「物理的に」盗られない方法や、しまう場所をめいめいが検討するべきだろう。

ここまで読んでくれた方、他にも何か良い方法を知っていれば、是非教えてください。もう二度とスリに遭いたくない、というより被害に遭いたくないので。

しかし、高い授業料だったな~。
「しばらく遊ぶな」ってこと?(笑)

記:2000/08/12

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