かもめ食堂/試写レポート

      2018/01/09

kamome

先日、試写で観た「かもめ食堂」。
なかなか良かったです。

舞台はフィンランド。

フィンランドといえば、ムーミンやサンタクロースが有名な国ですが、そのほかにも、

学力調査、
国際経済競争率、
図書館利用率、
国民一人当たりの年間の観劇回数、
汚職のないクリーン度、
国民一人あたりのコーヒー消費量、
水質…
など、世界ランキングで1位が多い国なのですね。

女性の参政権が認められたのもニュージーランドに次いで世界第二位だし、町全体のバリアフリーも徹底している。

けっこう凄い国なのです。

しかし、この凄さがダイレクトに「スゲーだろ?」と伝わってこないというか、そもそも、そういう国に見えないところが、この国の良いところなのかもしれません。

どこかの国のように、国民がアクセクしているようには、とても見えない。むしろ、ノンビリとしているようにすら見える。
ここがこの国の魅力なのかもしれませんね。

ま、考えてみれば当然なのかもしれません。

白夜でも有名な国ですが、つまり、気候が非常に厳しいわけで。

ということは、過酷な環境で暮らせるということ、それ自体が強いということです。

厳しい自然の中で、当たり前のように普通に生活できる。

そのことをもってしても、人間的基礎体力が違うのかもしれません。

反対に、小さなことにメクジラ立てたり、カリカリしていることは、やたら攻撃的になることは、要するに弱いということですね。

カリカリせずに、物事をおおらかに受け入れるメンタリティを持っていることが本当の強さなのかもしれません。

この映画の舞台は、そのような魅力溢れる国、フィンランドですが、主人公は日本人の女性。

小林聡美が演じる、港町ヘルシンキに日本食の食堂を営む女性です。

小林聡美の淡々としつつも、きっちりと自分の生き方に芯の通っている、柔らかなタフネスさを備えたキャラクターには好感が持てました。

合気道の武道家の父がいて、今でも合気道の基礎訓練を欠かさないという設定になっています。

彼女の気が強いとか、気丈とか、男勝りとか、そういう「頑張った強さ」とは対極の、自然体の流れるようにソフトな強さのバックボーンとしてとしては、頷ける設定だと思います。

自分のペースで淡々と流れるように日常を泳いでいる。

食堂を開店しても、客は全然はいらず。

来るのは、日本オタクの少年だけ。

それでも、彼女は淡々と毎日グラスを磨き、途中、食堂を手伝うことになった片桐はいりの「日本人客を呼び込むためにガイドブックに掲載してもらおう」という提案も柔らかく断ります。

自分の価値観と「ちょっと違うな」と思ったことは、“迷わず実行しない”。

印象的なセリフがあります。正確には忘れていまったけれども、

「嫌いなことはやらないのです」

これって、真の自由人たる人の奥義ですよね。

だって、誰もが頭では分かっていることかもしれないけれども、キッチリと実行している人ってどれほどいますか?

主人公の小林聡美演じるサチエの素晴らしいところは、まったく気負わずに、サラッとこのようなセリフが言えてしまうこと。

たとえ、現状に不満があったとしても(具体的には、食堂に来る客が少ない)、自分にとってイヤなことは注意深くやらない。 その場の感情に流されない、だけども、決して頑固なわけでもなく、日々時間の中を泳ぐように、それなりに楽しく、淡々と生きている。

そして、気負わずに、自分の姿勢をマイペースで貫けば、望んだものも、当たり前のようにいつのまにか手にしているんだ、ということをこの映画を最後まで見れば分かってもらえると思います。

こういう生き方のスタイルと、舞台となるフィンランドが非常にマッチしていると思いました。

私はフィンランドに行ったことがないので、そこらへんは本当にそうなのかは分かりませんが、少なくとも日本よりは、生き方の基準や判断を迷わせるような「ノイズ」がフィンランドには少ないように感じられます。

というか、フィンランドだと、こういう生き方が何の抵抗もなく、すんなり出来てしまうような錯覚を観客に抱かせてしまうところが、この映画の良いところでしょう。

「かもめ食堂」をお手伝いすることになる二人の日本人女性。
片桐ハイリとモタイマサコは、抜群の存在感です。

言っちゃわるいけれども、決して華のあるタイプというわけではないけれども、二人とも妙な存在感がある。

とくに、モタイマサコの存在の微妙な温度での存在感が、この映画に良い味付けをしていると思いました。

これ以上やりすぎると、不気味にもなるし、ギャグにもなってしまう。行き過ぎてしまうと、なんだか映画のトーンが台無しになってしまいかねない役柄を彼女は、微妙な寸止め加減を効かせて演じています。

ただちょっと、これはミステリアスというかファンタジー過ぎてないだろう、という箇所がいくつかあって、これはちょっとどうかなぁ?ってシーンもありましたけど、まぁそれは許容範囲かな。

北欧の美しく、のんびりとしたフィンランドの港や町並み、そして森の映像もこの映画の魅力。
大作!というテイストの映画ではないですが、心の中にリトルハッピーな花を咲かせたい人にはおススメの映画です。

原作は群ようこ。
監督は荻上直子。
女性ならではの細やかな視線で、3人の日本人女性を描いています。

あ、そうそう、「かもめ食堂」の基調をなす、薄いブルーの色が、とても素敵だと思いました。

記:2006/01/29

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