1970年3月、新宿/阿部薫

   

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なかなかにジャズ的な阿部

アルトサックス奏者・阿部薫はエリック・ドルフィーを尊敬、いや、ドルフィーのスピード感を目指していた。

しかし、ここで聴ける阿部のサックスは、ドルフィーというよりも、むしろアイラーの咆哮に近いものを感じる。

1970年3月15日。

新宿ピットインでのライブ。

初期の阿部薫のライブ記録が本音源だ。

ソロ活動の多い阿部だが、今回はドラムスとピアノが阿部に追随する。

正直、両者とも、いまひとつ斬れ味が悪い。

しかし、そんな「打楽器」たちの斬れの悪さをものともせず、尺八にも挑戦している阿部は、ひたすら咽び泣く。

グジャグジャに歪められた《チムチム・チェリー》は、アイラーの《サマー・タイム》にも通じる、捩れとディフォルメの美。

ただし、後年聴かれるような、鋭い刃物のような殺気は感じられず、どちらかというとロングトーンを中心として、リアルタイムに自己の内面を探っている様子だ。

悪くいえば、試行錯誤しながら苦悩している過程に立ちあっている気がしないでもない。

簡潔で短いフレーズに込められる情報量とインパクト、そして殺気は、はるかに後年のほうが勝るが、唯我独尊の境地に達する一歩前の、「なかなかにジャズ的な阿部」を追いかけるのも悪くはない。

阿部薫の微妙なスタイルの変遷を追いかけたい方には、まずこの1枚から出発することをお勧めしたい。

これを聴き、後年の『騒(がや)』シリーズや、『彗星パルティータ』などを聴けば、後年になればなるほど、短い音の中に様々な情報量を凝縮させてゆく吹奏スタイルに変化していったことが分かると思う。

そして、遺された音源の中での到達点『彗星パルティータ』に至るのだ。

ここでの阿部はまだ、『パルティータ』に到るイバラの道の第一歩を踏み出した段階に過ぎない。

しかし、苦悶するエモーショナルな音は、演奏から40年を経た現在でも、聴く者の内面に強く働きかける何かがある。

記:2005/12/01

album data

1970年3月、新宿 (J・Iコレクション)
- 阿部薫トリオ

1.1970.3.15-1
2.1970.3.15-2

阿部薫 (as,尺八)
千田けいいち (b)
新田かずのり (ds)

1970/03/15 新宿ピットイン;ニュージャズホール

 - ジャズ