雑想 2000年5月
2021/12/21
ジャズメン
ジャズマンはすべからくダンディであるべし。恰好よくなければジャズメンではない。ダンディなジャズメンは演奏もダンディだ。
ジャズ喫茶「メグ」のマスターであり、評論家でもある寺島靖国氏の名言だ。
私もダンディなジャズマンを目指したいものだ。
って、………無理か?
このような断定的フレーズ満載のジャズに関する独断と偏見本(?)『辛口ジャズノート』は名著です。
記:2000/05/21
「ソロ」とういフォーマットが好きだ
好きなフォーマットは一概には言えないが、私の場合は人数が少なければ少なくなるほど興味がわきやすい。
ビッグバンドよりはコンボ。
クインテットよりはカルテット。
カルテットよりはトリオ。
トリオはトリオでもピアノトリオよりはピアノレストリオ。
トリオよりもデュオ。
そしてデュオよりはソロ。
他人と協調する必要のない、アンサンブルを念頭に置かない自己表現は、演奏者の特質と内面を過酷なまでに浮き彫りにするので、その誤魔化しの効かない、ただならぬ緊張感に惹かれるからなのかもしれない。
記:2000/05/21
ピアノ
ピアノは打楽器、だと思う。
西洋平均律という太いクサリによってガンジガラメにされた、不自由、かつ制御の困難な手強い巨人だ。
鍵盤を叩き、コネくり回し、倍音の悲鳴を上げさせ、いつしか飛翔させてあげられる日がやってくるまで……。
記:2000/05/21
カインド・オブ・ブルー/マイルス・デイヴィス
私にジャズをずっと聴き続けていこう、と決心させたアルバム。
メンバー全員が、静かに燃える情感を決して演奏表面には出すことなく、並々ならぬエネルギーと集中力の方向をむしろ内側に向けて、深く深く静かに潜行してゆく。
演奏者フィーリングと、その場を支配したムード、そしてほんの一分の隙さえも許されないタイミングの一致が、ひと粒の青白い結晶体に昇華された、類い稀なる一枚のアート作品。
記:2000/05/21
ビッチェズ・ブリュー/マイルス・デイヴィス
音による壮大な物語。
音による壮大な祭典。
フレーズ云々、ジャズ的 or 否ジャズ的などといった思い込みを排し、ただただ圧倒的な音塊の一瞬一瞬に身を任せるのが正しい聴き方だろう。
圧倒的なリズム群の中から見えかくれする、抽象的なマイルスのラッパは、重く、そして深い。小ぽけな脳みそを駆使して意味などを探ることはいったん休止しよう。圧倒的な音の群像の中に浸ることに集中しよう。
Bitches Brew (Columbia)
- Miles Davis
Miles Davis(tp),Wayne Shorter(ss),Bennie Maupin(bcl),John McLaughlin(el-g),Chick Corea(elp),Joe Zawinul(elp)Larry Young(elp),Dave Holland(b),Harvey Brooks(elb),Jack DeJohnette(ds),Lenny White(ds),Charles Alias(ds),Jim Riley(per)
1969 Aug.
●Pharaoh's Dance,Bitches Brew,Spanish Key,John McLaughlin,Miles Runs The Voodoo Down,Sanctuary
記:2000/05/21
>感性
個人の感性に基づく「好み」というものは、本人が自覚している以上に、自身を取り巻く環境や、幼少時からの体験の積み重ねによって規定されるものだと思う。
私がそう考えるようになったのは、(あくまで私から見て)大したことがなかったり、センスの無い人物ほど、やたらに「感性、感性」という言葉を連発するのを目の当たりにしたから。
この考えに基づいた意見は、当ページの別の記事にも書いたし、これからも書いていくかもしれないです。
記:2000/05/21
エリック・ドルフィー
好きなジャズマンの一人にエリック・ドルフィーがいて、彼の参加アルバムは、ほぼ耳を通している。
彼の奏でるアルト、バスクラリネット、フルートのどれもがスピード感に溢れ、その肉感的な音色と、聴いたこともない独創的で跳躍の激しいフレージングは、聴いた瞬間に病みつきになってしまった。
好きなアルバムは、たくさんある。
幾何学音楽とでも言うべき『アウト・トゥ・ランチ』。
我をも忘れてついつい聴きいってしまう熱いライブ『アット・ザ・ファイヴ・スポット vol.1』。
ひたすら不気味で怪しい『アザー・アスペクツ』などなど。
これらの音源は、ナガラ用のBGMとしてではなく、真剣に音楽に対峙したい時についつい手が延びてしまう、手強くも奥の深い素晴らしいアルバムたちだ。
記:2000/05/21
演奏速度
どの楽器でもそうなのだが、ベテランによるアップテンポの演奏は、実際の速度よりもゆったりと聴こえることが多い。
もちろんその逆もあって、実際のテンポ以上にスピード感を感じさせる人も多いが……。
特にスゴイなといつも思うのは、デクスター・ゴードンのレイドバック奏法。
間の取り方といい、たっぷりと余裕を持ったフレージングといい、熟練者ならではの余裕を感じる。
私のベースなどはまだまだで、ミドルテンポの曲でも、せかせかとした余裕の無い演奏になりがちなので、なお一層の精進を重ねたいものだ。
記:2000/05/21
ウッドベース
今ではエレキベース専門の私だが、以前は少しだけウッドベースを弾いていたことがある。
屋内、それもあまり広くないスペースと限定されはするが、ウッドベース独特の、空気をゆっくりと震わせ、空間包み込むかのようなサウンドは、エレキベースでは絶対に出せない。
いずれ再チャレンジして、あの豊穣のサウンドをこの手で奏でてみたいと思っている。
記:2000/05/21
YMO
小、中学生の頃、夢中になって聴いていた音楽がYMO。
最初に虜になったのは、《東風》や《テクノ・ポリス》、そして《ライディーン》などといったキャッチーな曲だったが、次第に彼らの暗く内省的なサウンドに惹かれ、特に『BGM』と『テクノデリック』は、本当に何度も何度も繰り返して聴いた。
少しでも彼らのサウンドに近付こうと、シンセやリズムマシンを買い、ラジカセやMTRで多重録音を繰り返し、彼らを発端に、少しずつ少しずつ聴く音楽の枝葉が拡がってゆき、今ではジャズや椎名林檎を演奏し、ピアノを叩きながら絶叫している自分がいる。
記:2000/05/21
at HURRAH/YMO
ビデオでは分散収録されていたYMOの「ハラー」でのライブ映像が、コンプリートな形で編集されたDVDで発売されていたので、改めて購入、観賞してみた。
カメラが高橋幸宏のドラムばかりを捉えているためか、どうしてもドラムを中心に見てしまうが、やはり幸宏の正確でなおかつグルーヴしているドラム・ワークは凄い(特にハットワークが)。
オイシイところは渡辺香津美がギターソロで持っていってしまうし、アッコちゃん(矢野顕子)はバックコーラスや『在広東少年』でスポットを浴びて華があるのだがが、この時の教授は、後年の『ウインターライブ』や『散解ライブ』のステージングと比較すると、信じられないくらい地味な存在だったのだな。
記:2000/05/21
坂本龍一と細野晴臣
元YMOのこの二人の音楽性の違いは、たとえば二人とも手掛けたことのある「沖縄(風)音楽」に対する取り組み方の違いにヒントがあると思う。
教授(坂本)の場合は、沖縄ペンタトニック・スケールの導入や、現地の伝統音楽奏者を雇うことによって、技術的、プロデュース的な対処の仕方で音楽を作ったことに対し、 細野さんの場合は、実際に現地へ赴いて土地独特の伝統・文化・風習を吸収しつつ、その土地の師承から楽器を習ったりと、実地体験からその土地の音楽の根っこを理解しようとした。
商業的に成功しているか否かの一点のみにおいての比較では教授に軍配が上がるかもしれないが、私としては、どちらかというと、細野さんの求道者的姿勢の方に共感している。
記:2000/05/21
インスタントコーヒー
コーヒーは好きだが、インスタントコーヒーはもっと好きだ。
1日に10杯近くは飲んでいるし、旅や出張の時もカバンの中にインスタントコーヒーの小瓶を忍ばせるのが常だ。
朝一番に飲むコーヒーは、インスタントコーヒーじゃないとダメで、ホテルや喫茶店の本格的なコーヒーだとちょっと調子が狂うのだ。
もはや、コーヒーとインスタントコーヒーは、ラーメンとカップラーメンと同様に、別種の飲み物だと思っている。
記:2000/05/21
ビーチ・ボーイズ
ビーチボーイズを忘れた頃にたまに聴く。
低音をあまり感じないサウンド。
彼らのサウンドにはオーディオのシステムから出る音よりも、むしろラジカセのような安めな再生装置がよく似合う。
「シャリシャリッ! うん、それでいいのよ。」
そう言って、ビーチボーイズ好きの彼女は笑った。
記:2000/05/21
バンドのMC
私自身も気をつけなければと思うことなのだが、アマチュアのライブのMCでありがちなのが「あまり練習してませんけど……」ってやつ。
自信のなさからくる、うまくいかなかった時のための予防線なのだろうが、観客にとっては、良い演奏、楽しい演奏を聴かせてもらえれば、練習しようが、していまいが、そんなことどうでもいいことなんだよね。
下手なら下手なりに、練習してないならそれなりに、一生懸命演奏してくれた方がこちらとしては楽しめるし、好感を持てると思うのだが。
プロは絶対にそんなこと言わないよね。
「練習してないんですけど」。
この一言で、「金返せ!」の罵倒が飛ぶ。だから、たとえ練習していなくても、そんなことは言わない。
「金返せ!」を言われる可能性の少ない、あるいは「金返せ!」と言いたくなる客の気持ちをイメージできないアマチュアは、こういう点一つとっても、プロよりも甘いといわれても仕方が無い。
記:2000/05/21
マカロニほうれん荘
小学生の時は、『少年チャンピオン』に連載されているこの漫画に夢中だったし、今でも時折、愛蔵版を時々読み返しては笑っている。
何しろ、1コマ1コマに封じ込められた絵の躍動感がスゴく、漫画全体から強烈なビートを感じる。
ヒゲ、グラサン、ひし形口のトシちゃんが大好きで、早くあのような大人になりたいと思っていたものだが、気が付けばとっくに彼の年齢をとっくに追い越してしまっている自分がいた。
記:2000/05/21
街の灯
東京の街の灯は白銀灯なので、白っぽく、無機質に風景が映る。
一方ニューヨークやヨーロッパ諸国の街灯は、ブラウン系のタングステンなので、夜の街が綺麗に見える。
海外のほうが、日本の街の風景よりも絵になりやすい、と漠然と感じている人も多いと思うが、それには理由があったのだ。
記:2000/05/21
レッド・ガーランド
除隊後に念願のプロ・ボクサーになったレッド・ガーランドは、たちまち試合で30勝をあげたが、クリーブランドでの試合に予定された相手の都合が悪くなり、代わりに立てられたのが、かつて一緒に練習をした仲間だった。
友人を殴り倒す気になれず、判定負けを喫し、マネージャーからはボクサーに向かない男だと見離されたため、ジャズピアニストに転向した。
もともとレッド・ガーランドは大好きなピアニストだったが、このエピソードを知ってますます好きになった。
記:2000/05/21
天下多忌諱
天下多忌諱、而民彌貧
~天下に忌諱多くして、民いよいよ貧し
技術が進めば進むほど社会は乱れ、
人間の知恵が増せば増すほど不幸な事件が絶えず、
法令が整えば整うほど、犯罪者が増える。
「老子」からの引用だ。
昨今の社会を賑わしている一連の少年犯罪や、通り魔殺人などといった暗い事件を持ち出すまでもなく、まさに真理を突いている言葉といえる。
記:2000/05/21
勝訴ストリップ
椎名林檎の2枚のアルバム、個人的にはどちらも好きで優劣をつけ難いのだが、『無罪モラトリアム』を聴くときは「作品集」として、『勝訴ストリップ』を聴くときは1枚の「作品」として聴いている。
もっとも、厳密に区分して聴いているワケではないのだが。
『無罪~』は聴きたい曲を選曲して聴くことが多いが、『勝訴~』は、どうしても一曲目からラストまで通しで聴いてしまうし、曲を飛ばしてかけようという気が全くおきない。
そういった意味では、非常にレコード的な作りであるのと同時に、トータルアルバムとしての完成度が高いのだと思う。
記:2000/05/23
ブラインド・レモン・ジェファーソン
ボブ・ディランがカバーした《See That My Grave Is Kept Clean》という曲を作り&歌い、憂歌団が『シカゴ・バウンド』中に歌う「メクラのレモンも死んじまったし…」のレモンとは、テキサス出身のブルースマン、ブラインド・レモン・ジェファーソン(ジェファスン)。
戦前のカントリープルースの代表格といわれている彼の、流れるように朗々としたギターとヴォーカルはとてもピュアだ。
夥しいスクラッチ・ノイズの向こうに垣間見る、骨太で力強い彼のギターと歌を聴くたびに、自分の中に流れる慌ただしい時間意識と、彼の体内に流れていたであろう悠久な時間の流れの差に、いつも唖然としてしまう。
記:2000/05/24