4,5&6/ジャッキー・マクリーン
胸に迫ってくる哀愁感
ジャッキー・マクリーンのアルトサックスの魅力のひとつ。
それは、誤解を恐れずに言えば「不器用なところ」が挙げられる。
ちょっとくすんだ音色のアルトサックス。
音程もちょっとフラット(実際の正しいピッチよりも低め)している。
熱気を帯びたサックスから発せられるフレーズも、テンポやタイミングによっては決して流暢とは言えない箇所も散見され、どちらかというと詰まった感じもする。
さらにテンポが速くなると、リズムへのノリ方も、多少つんのめり気味。
しかし、これらマイナス要素が、逆に「一度聴いたら忘れられない」という強力なトレードマークとしてリスナーの脳裏に焼きつくことも事実。
完璧過ぎるものは「当たり前」として素通りしがちな人間の意識だが、多少イビツだったり、引っ掛かりの要素があると、人はかえってその対象に愛着を感じることも少なくない。
「俺にはこれしか吹けないんだ!」という真摯さは音に十分過ぎるほど宿り、これにやられて虜となったジャズファンは数知れず。
上記にあげたマイナス要因が、いちどマクリーンのことが好きになってしまえば、すべてプラスの要素に転じてしまうところが面白い。
『4,5 and 6』は、《センチメンタル・ジャーニー》の名演で有名なアルバムだ。
タイトルの、3つの数字は、フォーマットを表す。
4人のカルテット、
5人のクインテット、
6人のセクステット。
3つの種類のフォーマットで演奏された内容が封じ込められている。
ドナルド・バード参加の演奏は、ブリリアントなバードのトランペットがマクリーンのアルトと良い対比をなし、マイルドなテナー、ハンク・モブレイが参加すると、マクリーとともに相乗効果的にハードバップな味わいが増す。
個人的愛聴曲は2曲ある。
まずは、このアルバムの看板ともいえる《センチメンタル・ジャーニー》。
落ち着いたテンポに、何の気取りも衒いもなく、ごくごく「普通」に有名なメロディを吹くマクリーン。
ブレイクの箇所でフレーズが詰まる瞬間もあるが、何故だかその箇所ですら心地よく感じてしまう。
この普通さ、さり気なさから醸し出す諦観まじりのゆるい気だるさ。
このフィーリングこそ正真正銘、ジャズだ。
もう1曲はラストの《アブストラクション》。
哀感漂うテーマからして、マクリーンの泣きを味わえる舞台装置は整っている。切々と聴き手に訴えかけてくるようなサックス。たまらなく哀愁。
胸に迫ってくる真摯な演奏なのだ。
記:2008/11/22
album data
4,5&6 (Prestige)
- Jackie McLean
1.Sentimental Journey
2.Why Was I Born?
3.Contour
4.Confirmation
5.When I Fall In Love
6.Abstraction
Jackie McLean (as)
Donald Byrd (tp) #3,4,6
Hank Mobley (ts) #4
Mal Waldron (p)
Doug Watkins (b)
Art Taylor (ds)
1956/07/13 & 20
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