映画『イニシエーション・ラブ』感想~2人の「たっくん」を映画はどう表現したのか【ネタバレ注意】

   

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走る!走る!ぶつかるw(゚ロ゚;w

きちんと騙してくれました

『イニシエーション・ラブ』の原作を読んだ後に誰もが抱く興味は、映像化されたら、どのような方法で観客を「騙す」のだろうか?ということでしょう。

さすがに「一人二役」は無理があるよな~、そのへんのところ堤幸彦監督は、どういう手腕を見せてくれるのか、期待半分、不安半分で映画館に向かいました。

しかし、不安のほうは的中せず、映画は映画として、見事にうまく騙してくれました。

そのことに関しては後述するとして。



ラスト5分

まずは、この映画のキャッチコピーに関して。

「ラストの5分であなたは騙される」とか「結末の5分に大どんでん返しがある」(うろ覚えですいません)というような謳い文句は、ちょっと違うかもな~、と。

「騙される」あるいは「ドンデン返し」というよりかは、むしろ親切に「解説」してくれたって感じでしたよ。

これまでの出来事を、時系列順に丁寧に並べなおして、鑑賞者を腑に落とすという親切編集(笑)。

この「種明かし」は親切すぎるぐらい親切で、むしろ、もう少し観た人の想像をめぐらせるだけの余白があってもいいのかなとも思いましたけど。
原作の小説のようにね。

▼原作本
イニシエーション・ラブ (文春文庫)イニシエーション・ラブ (文春文庫)

でも、観に来た人の全員が全員、理解してくれるとも限らないという判断だったのでしょうか。きちんと懇切丁寧に「説明」をして、きちんと「納得」してもらって、きちんと「あ~面白かった」と言いながら、劇場を後にしてもらいたいと考えた上での編集だったのかもしれませんね。

実際、劇場を出る際は、観に来ていた女子グループの何人かは「あ~面白かった」と言ってましたから。

別人「たっくん」をどう見せるか

さて、私の最大の興味は、2人のたっくんを、どう映像で表現するのか、ということでした。

おそらく、私以外にも原作の小説を読んだ人にとっても、この映画を観る際の大きな関心ごとなのではないでしょうか。

小説であれば、当然のことながらビジュアルがないのため、登場人物の顔がわかりません。だから「呼び名」が同じでも、「たっくん」は2人いんだたということは、最後の数行を読むまでは、なかなか気が付かない構造になっています。

しかし、映画の場合はそうは行きません。

大学で数学を専攻している「たっくん」と、大学で物理学を専攻していた「たっくん」は、双子でもない限りルックスは違うはずなので、このルックスの違いを映画(=ビジュアル)では、どう表現してくれたのかというと……。

【注意】
ここから先はネタバレになりますので、これから映画を観る予定の方は読まないでね!
(・∀・)b










映画のパンフレットにも、肝心な「秘密」に関しては、劇場を出てからお読みくださいとシールで封印してあるんだよね。











一言でいえば、「ダイエット」。

「ダイエット」で「変身」したと思わせる。

数学を専攻し、富士通に内定が決まっている「たっくん」は、デブで冴えない風貌です。
そんな彼がスリムでシャープな松田翔太に「変身」したと思わせるために、「マユ(繭)ちゃんのために痩せるぞー! これはオレの決意表明だ!」とオーバーアクション気味に宣言させるのです。

このことによって、「この人はこれからダイエットをするんだ、生まれ変わろうとするんだな」ということを観ている人に植え付けることに成功しています。

そして、月日は流れ、「ああダイエットに励んでるんだなぁ」と思わせる描写、つまり、ナイキのエアジョーダンを履いてジョギングしている、もう一人のたっくん(=松田翔太)が登場するわけです。

季節は夏。

ああ、クリスマスイブの日に宣言して、半年間の猛特訓の末、こんなにカッコよくなっちゃったんだ、と観客に思わせる仕掛けだったわけです。

さすがに、あのデブでモッサリして垢抜けない「たっくん」が、精悍でシャープな「たっくん」に生まれ変わるのは無理だよなと思ってしまいがちですが、意外と、そのあたりは大きな違和感なくつなげることに成功していますね。

これはきっと、我々がドラマなどで、登場人物と、その人物の子役時代のルックスや雰囲気がかけ離れてても、「まあ、仕方ないよね。役者が違うんだから」と、なんとなく納得するクセがついてしまっているからかもしれません。

また、我々のそうした、ドラマや映画の「暗黙の了解」に当て込んだうえでの大胆な直球なのかもしれません。

この「たっくん(おでぶ)」→「たっくん(スリム)」を違和感なく繋ぎ、同一人物だと思わせることに成功してしまえば、この映画は半分以上成功したも同然でしょう。

後の描写は比較的原作通りでした。

それこそ、活字がそのまま映像になったかのようなシーンの連続でしたが、映画は映画として楽しめる110分でしたよ。カップルで行けば、映画の後のお茶や食事の会話が弾むに違いありません。

敦子も翔太も今は50代

それにしても、「あの時代」に若者だった前田敦子も松田翔太も、いまでは50歳を過ぎているんですね。

ひょっとしたら、彼ら彼女らの子どもたちも、そろそろ「恋愛の通過儀礼(イニシエーション)」を体験している頃かもしれません。

そういえば、『男女7人秋物語』の片岡鶴太郎と手塚理美が、美弥子(木村文乃)の両親役で登場していたな(笑)。これをリアルタイムで観ていた若者たちこそ、まさに、当時の前田敦子であり、松田翔太だったんですね。

彼らの世代が、この映画を観たら、どんな感想を抱くんだろう?
音楽や電話などの小道具から「懐かしい」と感じるのか、それとも、やっぱり「今風ね」と感じるのか、そのあたりも興味深いですね。

記:2015/05/25

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