限りなき探求/ミロスラフ・ヴィトウス

      2022/11/09

ヴィトウスとムラーツ

プラハ出身の凄腕ベーシスト、ミロスラフ・ヴィトウス。
彼は、19歳のときにインタ-ナショナル・ジャズ・コンク-ルのベ-ス部門で優勝したほどの腕前を持つ(1966年)。

ちなみに、その時に2位になったベーシストがジョージ・ムラーツだ。
2人とも、さすが弦楽器大国のヨーロッパの風土に育まれただけあって、そのテクニックには素晴らしいものがある。

しかし、両者のリズムのノリは随分と違う。

「これぞ木の音!」とでも言うべきウォームなトーンと、しなやかなスイング感が心地よいムラーツに対して、ヴィトウスのベースは、脈打つような鼓動の振幅が凄いベーシストだ。

まるで、低音が心臓の鼓動のように「どっくん・どっくん」と脈打っているような躍動感がある。

“水平のムラーツに対して、垂直のヴィトウス”と私は勝手に呼んでいるが、とにかくヴィトウスの演奏をボトムから強力に揺るがす躍動感はすごい。

“強い”ベースだと思う。

マクラフリン効果

彼のリーダー作、『限りなき探求(邦題)』は、非常に殺気だった雰囲気が魅力のアルバムだ。

ヴィトウスの“強い”ベースが十全に生かされた内容となっている。

しかし、この「殺気だった」雰囲気の鍵を握っているのは、ヴィトウスの脈打つベース以上に、ジョン・マクラフリンのギターじゃないかと思う。

「ジャッ!!」
「ザッ!!」
「ッチャ!」

鋭利な刃物のように斬れ味鋭いカッティング。

マイルスの『ビッチェズ・ブリュー』や、トニー・ウィリアムスの『ライフ・タイム』にしてもそうだが、この時代のマクラフリンのギターは凄い。

テクニックも凄いが、それ以上に、特有の空気を漂わせる存在感が凄い。

演奏の中に、不穏な空気を漂わせるのだ。

マイルスにしろ、トニーにしろ、この時代の彼らの作品の空気の半分は、マクラフリンが作り出したものと言っても過言ではないんじゃないかと思えるぐらい、演奏の中に暗雲を漂わせている。

『ビッチェズ』にしろ『エマージェンシー!』にしても、音楽もフォーマットも全然違うのに、なんとなく共通したヤバい雰囲気を感じるのは、マクラフリンのギターが参加していることによるんじゃないかと思う。

そんなマクラフリンが参加している『限りなき探求』。

他の面子も豪華だ。

攻守ともに優れたハンコックのエレピに、うねりまくるジョーヘンのテナー。

そして、畳み掛けるかのようなジャック・ディジョネットのドラミングが風雲急を告げるかのような緊迫感を増幅させている。

これ以上のメンバーは考えられないほど、理想的な陣容誇るこのパーソネルだ。

彼らが繰り出す、なんだかすごく戦闘的で緊張感溢れる演奏は、脳に心地の良い刺激をもたらす。

冒頭の《フリーダム・ジャズ・ダンス》で、のっけからヤラれてください。

記:2003/03/25

album data

INFINITE SEARCH (Embryo)
- Miroslav Vitous

1.Freedom Jazz Dance
2.Mountain In The Clouds
3.When Face Gets Pale
4.Infinite Search
5.I Will Tell Him On You
6.Epilogue

Miroslav Vitous (b)
Joe Henderson (ts)
John McLaughlin (g)
Herbie Hancock (elp)
Jack DeJohnette (ds)

1969/10/08

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追記

急激な変動を続ける国際社会!

そんなワールドワイドな緊迫感を音楽で表現するのであれば、ミロスラフ・ヴィトウスの『限りなき探求』でしょう。

特に1曲目の《フリーダム・ジャズ・ダンス》。

なんかヤバい。

いや、かなりヤバい雰囲気。

リーダーのヴィトウスの脈打つベースはもちろんのこと、ハービー・ハンコックのエレピも、ジョーへンのテナーサックスも、マクラフリンのギターも、なんだか全員が、揃いもそろって、巨大な危機感を一身に背負って楽器を鳴らしているかの様相。

さらに、より一層、その緊迫感に拍車をかけているのが、ジャック・ディジョネットのドラミングでしょう。

シンバルの乱打。

風雲急を告げるただごとではない非常事態に拍車をかけるかのようなスケール大きなドラミング。

昭和44年の録音ではありますが、この時に発せられた警報は、平成27年の現在も耐えることなく緊張感をたたえて鳴り響き続けているのです。

記:2015/02/17

 - ジャズ