ヤング・ブラッド/エルヴィン・ジョーンズ
2021/02/17
若手をビシバシ鍛えていたエルヴィン
2004年5月18日に亡くなったエルヴィン・ジョーンズの訃報にいくつか目を通すと……。
ほとんどの新聞に記されていた彼のプロフィールは「コルトレーン・カルテット全盛期のドラム奏者」ということになっていて、それ以上のキャリアは紹介されていないものが多かった。
もちろん、それに対してどうこうと言うつもりはない。
新聞にも規定の字数があるわけだから、紹介できる文字量にも限界がある。
だから、もっとエルヴィンのキャリアを紹介せい!と言っているわけではない。
たしかに、彼のキャリアの絶頂期がコルトレーン・カルテットでの活躍だということは誰もが認めることだし、まったくその通りだと思う。
しかし、コルトレーン全盛期が黄金のカルテットの一応最高傑作とされている『至上の愛』だとすると、これは彼が36歳のときに吹き込まれたもの。
それ以降の40年間のエルヴィンは?…というと、もちろん、彼は相変わらず精力的に活動していたし、リーダー作こそ少ないものの、サイドマンとして参加したレコーディングは500以上にものぼる。
奥さんが日本人ということもあり、長く日本に住み、ジャズクリニックを開いたり、ジャズ・クラブを開店させたりもした。
また、コルトレーンに関するイベントには必ず参加していたようだし、コルトレーンと袂を分かってからは、『プッティン・イット・トゥゲザー』のような、名盤も発表している。
また、コルトレーン没後25周年を契機に、「エルヴィン・ジョーンズ・ジャズ・マシーン」を始動させ、様々なベテランミュージシャンとの共演により躍動感のあるジャズを世に送り続け、同時に、後進の育成にも心血を注いでいた。
「ジャズ・マシーン」は、固定メンバーを持たない、出入り自由なエルヴィン・ジョーンズのユニットだ。
いってみれば、エルヴィンさえドラムの椅子に座っていれば、ほかのミュージシャンが誰であれ、何人であれ「ジャズマシーン」となり、共演者がどんなプレイをしようが、エルヴィンのパワフルなドラミングがそこにある限り、「ジャズ・マシーン」の音となった。
『ヤング・ブラッド』は、そんな「ジャズマシーン」における、若手かつベテラン管楽器奏者3人のプレイを楽しめるアルバムだ。
ニコラス・ペイントン、ジョシュア・レッドマン、ジャヴォン・ジャクソン。
第一線で活躍している若手ベテランたちばかりがフロントを飾る。
ピアノはいない。
エルヴィンの畳み掛けるようなドラミングを柔軟に受け止めるは、ベテラン、ジョージ・ムラーツの伸びのあるベース。
この二人によって作り出された強靭かつ柔軟なリズムの上に、ちょっと固いけれども、若手のイキの良いプレイが次々と繰り広げられる。
そう、ちょっと固めなんだ。
そんな若き日のジョシュア・レッドマンが瑞々しい。
ニコラス・ペイントンも健闘していて、ワン・ホーン演奏の《ボディ・アンド・ソウル》には思わず聴き入ってしまう。
エルヴィンが叩き出す複雑なポリリズムは、まさに、彼にしか出来ないワン・アンド・オンリーなドラミング。
細かな拍のズラシや、タメを効かせて一気に爆発する破壊力抜群のバスドラなど、細かいところを挙げればキリがないが、それ以上にエルヴィンのドラムからは、圧倒的なパワーと、スケールの大きさを感じる。
無尽蔵なパワーが生み出す彼のリズムは、まるでドラムスがひとつの巨大な生き物のように胎動し、蠢き、咆哮する様を連想してしまう。
つい先日のことだが、『ジャズ名演入門』完成の打ち上げもかねて、ジャズライターが一同に会する花見会が催された。
そのときに、評論家の村井康司氏から、「君がベースで共演してみたいジャズマンは誰?」と聞かれたときに、私はすかさず「絶対無理だし、(リズムに)取り残されることは分かっていても、それでもエルヴィン・ジョーンズと一度でいいから共演してみたいです」と答えたことを思い出す。
彼の圧倒的なパワーと、巨大にゆらめくリズムの洪水をガッチリとベースで受け止め(受け止められないだろうけど…)、かつ巨大にうねる波にもまれたいという欲望がベーシストの私にはあったのだ。
今は、もうかなわぬ夢になってしまったが……。
記:2004/05/25
album data
YOUNG BLOOD (Enja)
- Elvin Jones
1.Not Yet
2.Have You Seen Elvin?
3.Angel Eye
4.Ding-A-Ling-A-Ling
5.Lady Luck
6.The Biscuit Man
7.Body And Soul
8.Strange
9.My Romance
10.Young Blood
Elvin Jones (ds)
Nicolas Payton (tp) except 3,4,9
Javon Jackson (ts) except 3,4,7,9
Joshua Redman (ts) except 4,7,9
George Mraz (b) except 4
1992/04/20 & 21