スリー・ストーリーズ・ワン・エンド/サイモン・ナバトフ
心地よき「漂白」演奏
いやぁ、見事に漂白してくれたものだ。
セロニアス・モンクの《エピストロフィ》、ジョン・コルトレーンの《ジャイアント・ステップス》、ソニー・ロリンズの《セント・トーマス》……。
「そうそうたるジャズマンの、そうそうたる曲たちを、丁寧にアク抜き・油抜きしたら、こんな仕上がりになりました。お口に合いますでしょうか?」
そんな、サイモン・ナバトフ料理長の声が聞こえてきそうだ。
はい、もちろんです。
そして、「腹八分目で、料理の味と、楽しいひと時を過ごすことが出来ました。」という言葉も付け加えたい。
もちろん、皮肉ではなく。
黒人ジャズ、特に50年代のブルーノートやプレスティッジなどの音源には絶対に求め得ないサウンド・カラーがそこにはある。
「真っ黒」とは対極な、サイモン・ナバトフの「真っ白」なノリとニュアンスは、それはそれでかなり気持ちの良いものがある。
難解ではなく、平易で親しみやすい演奏内容も幸いしているのだと思う。
特に、タイトル曲の《スリー・ストーリーズ・ワン・エンド》は、ベースとピアノによって執拗に繰り返されるリフと、それにかぶさる優しい旋律は、まるで柔らかい子守唄を聴いているようで、とても心地よい気分になれる。
そう、ナバトフのピアノは柔らかいのだ。
決して、コチコチでカチカチで観念的なピアノではない。
時折、フリージャズ的な調整を逸脱したかのようなアプローチも見せるが、不思議なことに、それとて、耳に優しいのだ。
エネルギー感と、躍動感には乏しいものの、ストイックなほどにスタティックで上品なピアノ。こういうピアノも悪くない。
部屋の空気も、しっとりと落ち着いた空間に早変わりしてしまうほど、クリーンで、清潔で、趣味の良いピアノだと思う。
アール・デコ調に変形された(?)、《ジャイアント・ステップス》や《エピストロフィ》に興味のある方は、是非耳を傾けていただきたいと思う。
記:2002/06/10
album data
THREE STORIES,ONE END (ACT)
- Simon Nabatov
1.Three Stories,One End
2.Emily
3.For Herbie
4.Epistrophy
5.Groofta
6.I Wish I Knew
7.Giant Steps
8.St.Thomas
9.Wish I Were There
Simon Nabatov (p)
Drew Gress (b)
Tom Rainey (ds)
2000/11/13-14