WOW/大西順子
プロスペクト・パーク・ウェスト
鍵盤の低音部をガンガンと弾きまくるのが圧巻な《ザ・ジャングラー》や、《ブリリアント・コーナーズ》、《ブロードウェイ・ブルース》なども迫力があって良いが、私にとっての『ワウ』は、なんといっても《プロスペクト・パーク・ウェスト》を聴くためのアルバムだ。
え?そんな曲あったっけ?
一瞬訝しがる方もいらっしゃるかもしれない。
なにせ、このアルバムの流れの中ではちょっとした“箸休め”的な小ぢんまりとした曲なのだから。
あるいは、力演の《ポイント・カウンター・ポイント》への橋渡し的な役割を果たすだけの、単なる“前振り”的なイメージしか持たれていない方も多いかもしれない。
たしかにその通りなんだけど、“小曲”ながらも、《プロスペクト・パーク・ウェスト》は、大変に魅力的な曲なのだ。
そこはかとなくセロニアス・モンク的な匂いをメロディや和音から感じ取れる。
もっと具体的に言うと、《クレパスキュール・ウィズ・ネリー》の現代版とでも言うべきか。この曲を、さらに理知的に整理整頓した、奇妙な美しさの漂う曲だ。
クールに叙情的な曲想と、よく練り上げられた和声。ピリッと簡潔にまとまった短い演奏。アドリブ無しのテーマだけの繰り返し。途中からさり気なく入るシンバル。日常的で乾いた雰囲気の中に、時折垣間見れる湿っぽさ。
次の曲の熱演の嵐の前の静けさといった感じだが、この曲こそ、この重たい雰囲気のアルバムの中のヘソだと思う。
このピリッとした《プロスペクト・パーク・ウェスト》を私は愛してやまない。
気合いのはいった初リーダー作
一番目立たない曲を引き合いに出してしまったが、他の演奏も、もちろん一級品。
生ぬるい気分で聴くと、手痛い反撃に合いそうなほど、ハードにドライブするピアノが聴ける。時に重苦しいほど、ゴリゴリ、ガンガンと迫ってくるピアノは、かなりの迫力。
男勝りのタッチと気迫だ。
エリントンを彷彿とさせる低音の使い方、チャールス・ミンガスが好んで使うような「濁った」和声感覚。
そうかと思えば、ケニー・カークランドを彷彿させるモダンな和声感覚も混在し、疾走するシングル・トーンにはレッド・ガーランドの面影もチラホラ。
この初リーダー作には、彼女が長年温めてきたアイディアや、やりたいことを一気に吐き出したような印象がある。
だからといって、散漫な内容ではなく、むしろ、アルバム全体を貫くトーンは一貫していて、ジャズの「濃い」部分のエッセンスが凝縮された内容となっていると思う。
リズムセクションの手堅いサポートも見逃せない。
特にベースのリアルな音色も特筆すべきものがある。
大西順子、鮮烈なデビューを飾るに相応しい1枚だ。
彼女がデビューした当時は、このアルバムや、彼女が奏でる迫力たっぷりのピアノに関して、かなり話題になったものです。
記:2002/08/28
album data
WOW (Somethin' Else)
- 大西順子
1.The Junglur
2.Rockin' In Rhythm
3.B-Rush
4.Prospect Park West
5.Point-Counter-Point
6.Brilliant Corners
7.Nature Boy
8.Broadway Blues
大西順子 (p)
嶋友之 (b)
原大力 (ds)
1992/09/03-05
追記
《プロスペクト・パーク・ウェスト》について語った動画もアップしてみました。
やっぱこの曲ええわぁ。
記:2019/04/23