ナイト・ドリーマー/ウェイン・ショーター
リズム隊はエルヴィンにマッコイ
比較的あっさりと聴けるショーターの好盤だ。
ハードバップの香りを残しつつも、新しい響きと試みに満ち溢れている作品でもある。
ショーターがマイルス・コンボに入る数ヶ月前の録音だ。
リズム陣が、エルヴィン、マッコイと、当時のコルトレーン・カルテットのメンバーとかぶるので、サウンド的には、一瞬コルトレーンカルテットのサウンドを感じる箇所もある。
当時のショーターは、先輩・コルトレーンの影響を受けていたことは想像に難くないし、実際コルトレーン的なプレイが見え隠れする箇所もある。
しかし、よく聴くと、やっぱりショーターとコルトレーンは、資質からして全然違うタイプのサックス奏者なのだなということにも気が付くだろう。
バックのリズム隊が同じ陣容ということから、逆にフロントの個性の差がより一層くっきりと浮き彫りになるのだ。
コルトレーンとのアプローチの違い
コルトレーンとショーターの違い。
大雑把に言ってしまえば、「歌い方の違い」なのだと思う。
コード、スケールを徹底的に細分化、再構築、再構成して、正面から、後ろから、横から、斜めから、それでも飽きたらず(言い足らず)に、斜め後ろから、左横斜めからと、様々なアプローチを演奏しながら試行錯誤するコルトレーン。
当然、音数は多くなるし、演奏時間も長くなる。
一方、ショーターはというと、音数はコルトレーンと比べると格段に少ない(当然か)。
そして、彼の「歌い方」は、コルトレーンに比べると随分とメロディックだ。
メロディが、流れるように朗々と出てくる。
しかし、そのメロディの多くは、聴き手の予想に反した「意外な」旋律なことが多い。
しかし、不思議と音楽にピッタリとはまる。
この『ナイト・ドリーマー』は、当時のコルトレーン・カルテットと同様に、モード奏法を取り入れているが、ショーターの場合は、楽理に基づく奏法云々よりも、どちらかというと「気分」と「雰囲気」を最優先させているように感じる。
3拍子のタイトル曲は、ショーターが醸し出す気分とメロディがピタリと一致している心地よさがある。
この親しみやすいメロディとリラックスした雰囲気、そして山場を適切に盛り上げるエルヴィンのドラミングが素晴らしい。
イントロのマッコイのピアノも「夢前案内人」的な役割を果たしている。
このイントロを聴いて「いよいよ始まるぞ」とワクワクした気分になるのは私だけだろうか?
ショーターならではの取りとめもない不思議なメロディ感覚が発揮された《ブラック・ナイル》も良い。アルバムの中では比較的エキサイティングな演奏だ。
調和のモーガン
さて、このアルバムのもう一人のホーン奏者リー・モーガンについても少し書いてみたい。
時として、リー・モーガンは、共演のサックス奏者を喰ってしまうほど、華麗なプレイと、絶妙な「歌い方」をするトランペッターだ。
特に、モブレー、コルトレーンとのセッションにおいては、サックスよりも目立ってしまうことも多い。
では、このアルバムでのリー・モーガンはどうか。
不思議なことに(?)ショーターのサックスの邪魔していないどころか、とても効果的に引き立てていると思う。
ショーター独特の、鈍くくすんだ重量感のあるサックスの色彩が、モーガンによる、きらびやかな金色の色彩が添えられることによって、より一層鮮やかに引き立っている感じがする。
ここでのモーガンのプレイは、決して手を抜いているわけでもないし、畏まっているわけでもない。
多少の抑制は効かせているのかもしれないが、いずれにしてもモーガンのプレイは、ソロで自己を主張するというよりも、音楽・曲という枠の中に溶け込み、トータルな意味でのサウンド作りに貢献しているように感じてならない。
いつもなら、サックス奏者よりも、リー・モーガンのプレイに耳を吸い寄せられてしまう私だが、このアルバムに限って言えば、不思議なぐらいモーガンのトランペットよりも、ショーターのテナーばかりが耳に残っているアルバムだ。
それだけショーターは、音としての存在感が抜きん出ていることの証かもしれない。
記:2002/05/07
album data
NIGHT DREAMER (Blue Note)
- Wayne Shorter
1.Night Dreamer
2.Oriental Folk Song
3.Virgo
4.Black Nile
5.Charcoal Blues
6.Armagedon
Wayne Shorter (ts)
Lee Morgan (tp)
McCoy Tyner (p)
Reginald Workman (b)
Elvin Jones (ds)
1964/04/29