セシル・テイラーの音楽

   

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セシル・テイラーの魅力

セシル・テイラ-の音楽は、世間で言われているほど難しくはない。
好奇心が旺盛な音楽好きの期待を必ず満たしてくれることだろう。

フリージャズという言葉から受ける先入観に、必要以上に構えることはまったくないと思う。

予測不能な展開、尋常ではない緊張感こそがセシル・テイラ-の音楽の魅力だ。

怪しいピアニスト?

ただし、ポップスしか聴いたことのない人がいきなりテイラ-を聴けば、

「何?このメチャクチャ?」
「難しくて分からない」
「騒音だ」

という反応が返ってくることは容易に想像できる。

かくいう私もそうだった。

最初に彼のソロ・ライブの映像、『ピアノ・インプロヴィゼーション』を渋谷の「スウィング」で見た時は、正直ブッ飛んだ。

妙な唸り声をあげて、身をくねらせながらステージに登場した怪しいオジサン。

ピアノを弾き始めたら始めたで、削岩機が岩を掘っているような音を次から次へとはじき出す。
メロディックな要素は全く感じとれない。
ただただ音の固まりが空中に放リ投げられる。

突如ピアノを弾くのを止めたかと思うと、変な雄叫びをあげる。

そしてまた、ひたすら柔軟な10本の指がピアノの鍵盤をコネくり回して、ピアノが悲鳴を上げる……。

正直言って、この人、かなりヤバいなと思った。

滅茶苦茶なことを神妙な顔してやるから、聴衆は「芸術」だと思って崇めたてまつるんだよ、とさえ思った。

とはいえ、心の中にいつまでも「妙な引っ掛かり」が残ったこともまた事実。

恐らく彼の音楽上での狙いが良く分からなかったのだろう。

「分かってやろう」とまでは思わなかったものの、彼の表現しようとするところが全く掴めないまま「変な音楽」と決めつけてしまうのも難なので、彼のアルバムを数枚買い込み何度も繰り返し聴いてみた。

映像ではセシル・テイラーというピアニストの外見上のインパクトに圧倒されて、肝心な音楽の核心までには耳が届かなかったが、音だけに接してみると、複雑怪奇な表現ながらも、意外に整然とまとまった秩序と構造を持つ演奏なのだな、と感じた。

もしセシル・テイラーに興味を持ち、これから聴いてみようと思った人は、「難解」「前衛」といったような思い込みは取りあえず捨てて、出来るだけ虚心坦懐に、彼の奏でる音そのものに接してみよう。

あるいは、不愉快な気分になるかもしれない。

それでも、「クライマックス」や「落としドコロ」のような構成をおぼろげながら把握できたり、騒音の中にも秩序のようなものを何となく感じ取れるようになれれば、テイラ-中毒への道は近い。

高度なアンサンブル

テイラ-は構成の魔術師だ。
そして、空間をつくり出す達人だ。

演奏の展開は、はっきり言って分かりにくい。

型通りのパターンを期待するとあっさりと裏切られる。

その一筋縄ではいかないところが逆に言えばセシル・テイラ-というピアニストの魅力なのかもしれない。

ただし、彼のソロは必ずしも分かりにくくはない。

展開の盛り上げ、盛り下げに関しては、彼一人の責任において演奏をしているので(その楽器コントロールの技術の完璧なことよ!)、比較的彼の描いている音楽的設計図が見えやすく、親しみやすい作品が多い。

彼は、ピアノソロを数多く録音しているが、特にモントルーでのソロライブ・『サイレント・タン』などは、テイラ-が「キメる」たびに観客が拍手喝采を浴びせているので、聴きどころのポイントは把握しやすいだろう。もちろん演奏そのものも素晴らしい。

しかし、複数の共演者との演奏になると、不確定要素が入り込む確率が格段に高まるため、先の読めない展開となる。

しかし、よく聴くと分かるが、あらゆる偶然と不確定要素までもが彼の手中にあるのではないかという錯覚さえ起こさせるほど、高度なアンサンブルでもある。

そこで難しく考える必要はない。ひたすら演奏の流れに身をまかせてみよう。

秒単位ごとに細分化して聴くと難解に感じるかもしれないが、川の流れを大きく捉えて眺めるような気持ちで音に身をまかし、接すると、演奏の大きな流れ、うねり、鼓動を感じることが出来るはずだ。

コンキスタド-ル

特に私が個人的に愛聴しているブルーノートの『コンキスタド-ル』などは、最初からクライマックスの連続だ。

ConquistadorConquistador

すごい!
聴くたびに寒気がする。

私は即興アンサンブルの一つの到達地点ではないかとさえ思っているいるが、それくらい素晴らしい演奏だ。

もし、セシルに興味を持ったら、まずは、この1枚から入門すると良いのではないだろうか。

最後にセシル・テイラ-を適確に言い表したジャズ評論家、ナット・ヘントフの言葉を引用して締めくくろう。

自分の心を揺さぶったり、物の感じかたを変えてしまうような音楽を好まない人は、テイラ-を敬遠するだろう。しかし、冒険好きな人たちにとっては、テイラ-の音楽は数々の思いがけない発見を約束してくれる。

記:1999/04/06

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