超時空メルヘン「ババジ君」第1話
昔々印度に、ババジ君という男の子がいました。
彼は走るのが速いので、いつも村から村へのお使いを親から頼まれていました。
どれくらい早いのかというと、音速の約3倍程度のスピードなので、たとえばババジ君の村からデリーまでは約15分ぐらいの時間でしょうか。
デリーといえば大都会です。
まあどこの国の都会でもそうですが、デリーでも一部のインテリが始めた健康自然食がブームになっているので、ババジ君の村で作っているコンニャクの薯蕷芋漬なんかは飛ぶように売れます。
ですから、朝に市場で商売を始めると昼前には売り切れてしまいます。
あとは、おうちに帰るだけなのですが、どうせすぐに戻れるので、彼はいつも午後から夕方まではデリーの町をブラブラします。
売り上げ金の一部をちょろまかせば結構遊べます。
ババジ君が今凝っているのは日本でいえばキャバクラです。
要するにいわゆる若いネエちゃんを2~3人侍らせてワイワイやるところなのですが、彼はガキのくせにたいそうモテました。
得意のインドカンガルーのブーメランヨガをやると、もう店内は拍手の嵐です。
支配人の機嫌のいい時などは、逆にお小遣いなんかもらっちゃって、そのお金を売り上げのチョロマカシの足しにすればプラマイゼロになるので、もうやめられない止まらないです。
またババジ君は、けっこう悪いやつなので、よく万引きをしました。
まだ一度も捕まったことはありませんが、かりに見つかったとしても、得意の早足で逃げればすむことです。
さて、そんなある日、ババジ君は例によってデリーの町での商売を午前の早くに終え、町の外れにある一軒のランジェリーショップにはいりました。
こんなところに男が一人で入ると変態扱いされるのがオチですが、幸いババジ君はまだ6歳ですし、また女の子のような可愛い顔をしていたので誰もいぶかしがることはありませんでした。
「そこにある、ピンクのブラジャーを一つくださいな」
店のヒゲを生やしたデブの店員は、
「おやおや、坊や、お母さんのお使いかな?」
といい、ババジが指差したピンクのブラジャーを持ってきてくれました。
ババジ君はデブヒゲからブラジャーをひったくると、ダッシュで店から逃げました。
「コラ、待ちやがれ、このクソガキ!」
デブヒゲは後を追いましたが、ババジ君のスピードにはとても追いつけません。
「赤カブ号、発進!!!!」
怒り狂ったデブヒゲは、最高速度マッハ7の超音速ジェットバイクを呼びました。
1秒後には赤カブ号はデブヒゲの前に唸りをあげて到着、飛び乗ったデブヒゲは怒りに燃えたぎった目でババジ君の追跡を開始しました。
ダッシュで逃げたババジ君ですが、まだデリーの雑踏の中、さすがに得意の最高速度は出せません。
亜音速のスピードです。
ちょうど、イギリス海軍のホーカーシドレー・ハリヤーの最高速度といえばご理解いただけるでしょうか。
一方、デブヒゲの赤カブ号ですが、これは地上30メートルまでは滑空走行することができるので、雑踏の中だろうが関係ありません。
赤カブ号は全速全開のフルスピードでババジ君に接近しはじめました。
マッハ1、マッハ2、マッハ3、マッハ4...
地表25メートルで滑空走行をしているので、音速の壁を破った衝撃波がもろに地上に伝わりました。ソニックウェーブというやつですね。
マッハ5、マッハ6。
最高速に達しようとしたそのさなか、デリーの雑踏の人々の首が吹っ飛び、地面に亀裂がはしり、建物が破壊され、突風で木が折れ曲がり、市場に並べられていた野菜や果物が宙に舞い、もうもうと立ち込めた砂埃が赤カブ号の強力なエア・インテイクに吸い込まれると同時にデブヒゲの体躯を秒速2千メートルのスピードで襲い、体中に無数の穴を開け、その穴から奇麗な鮮血がぷしゅーっと噴水のように飛び出し、丁度お昼時だったので太陽の光線を血の粒子がプリズムの役割を果たして七色に分解し、血の色に染まった虹がデリーの空に浮かび、そのまわりを吹き飛ばされた何百もの首やら腕やら内臓が乱舞し、たまらないほどの悪臭が漂い、それはそれはこの世のものとは思えないほどの光景でした。
この事態を赤道上2000キロの上空からツブサに観察していた日本の軍事スパイ衛星、「すめらのみことⅡ世号」の乗り組員は、急いで出羽山脈の衛生管理システムの砦に急報を打ちました。
事態を重く見た局員はただちに日本国内にあるすべての秘密基地に光通信の暗号で、ことのあらましを通報しました。
つづく
⇒第2話