私のジャズ活字デビュー本
2018/01/11
私がはじめてWeb上ではなく、紙の上に書かせていただいたジャズ本は、別冊宝島の『JAZZ“名曲”入門!―100名曲を聴く名盤340枚』だった。
なぜ、あえて「活字デビュー本」という括りにしているのかというと、じつは私の初の活字デビュー本は、ジャズ本ではなく、なぜか“結婚本”だったんだよね(笑)。
今は品切れ増刷未定扱いとなっているようだけど、角川書店からの書籍『どうする!結婚』の中の4ページ執筆が、私の最初の紙の上に縦組みの活字で印刷された本のデビュー作なのよ(笑)。
どうする!結婚―さっとできちゃうカンタン自由なふたりのスタイルA to Z
その次に初めて活字になる原稿前提のジャズ原稿を書いたのが、先述した別冊宝島の『名曲入門』。
そして、しばらくして、この内容が書籍化されたものが、同タイトルの『JAZZ“名曲”入門!―100名曲を聴く名盤340枚』で、こちらは書かれた内容そのままが転載されている。
ただし、ムックから書籍になる段階で、多少のリニューアルが施されている。
巻頭に芥川賞作家・平野啓一郎氏のインタビューが追加されています。
氏は、小川隆夫氏との対談集『TALKIN'』を読めばわかるとおり、JAZZに関しての造詣がかなり深く、加えて作家ならではの鋭い切り口と目線をもった方です。
表紙は、「いーぐる」の入り口に下っていく階段のフォトをブルーノート調の2色分解にした色調。なかなかカッコいいです。
見慣れた場所なはずなのに、「なんだ、この写真、いーぐるの階段のところじゃん!」 と気づくのに3秒かかりました(笑)。
先日、西麻布でしこたま飲んで、深夜の六本木の青山BOOKセンターで酔い覚ましをしようと音楽書のコーナーに立ち寄ったら、この本が積んであったので、立ち読みした。
で、酔った状態で自分の書いたテキストの箇所を読んだら、「きゃー、これって本当にオレが書いたもの?」と思ってしまうぐらい、なんだか、自分が書いた文章とは思えない内容に感じてしまった。
ま、それだけ、私は書いた端から、すぐに忘れてしまう癖があることの証でもある(しょーもな)。
マヌケな例だが、ネットでジャズマンの名前で検索をかけ、羅列されたサマリーをチェックすると、「なんだ、この生意気なこと書いているヤツは?」と感じるものが時折出てくることがあって。
で、どんな内容なのか読んでみようと思い、記事にアクセスしてみると、過去に自分が書いた文章だったりすることがよくあるのだ(笑)。
それぐらい、過去に自分が書いた内容って忘れてしまう性質らしい。
『JAZZ“名曲”入門!―100名曲を聴く名盤340枚』に書いた内容も、当然何について、どんな内容のテキストを書いたのかは、忘却の彼方。
それにしても、文中に「“」「”」が多すぎるよなぁ、な“チョンチョン”多用な文章なのであります。
あと、擬音が多いのも目立った。
それに、文章が妙に硬い。
たしかによく読むと自分の文章なのだが、書いた内容を忘れ、おまけに酔っぱらった頭で読むと、まるで初めて出会った他人が書いた文章みたいに感じられ、妙に新鮮な内容ではありました。
今ではもう少しほぐれたテキストを書けるかな? と思いつつも、日々精進を重ねるぞ!な今日この頃であります。
と、書いているうちに色々と思い出してきたが、そういえば、「高野 雲」なるペンネームを使ったのもこの本が初だった。
『どうする!結婚』のときの署名は、たしか「雲」か「雲苺(いちご)」だったはず(笑)。
そう、私がネットをはじめたときの最初のハンドルネームは、「雲苺」だったのですよ。
なんでかって?
友人のチャットに初めて参加したとき、本名で参加したのね。
もう今から10年も前の話。
そしたら、「ネット上では本名じゃないほうがいいよ、ハンドルネームを考えたほうがいいよ」とアドバイスされたので、「じゃあ……」と部屋を見渡したら、市川雷蔵主演の『陸軍中野学校シリーズ』のビデオが転がっていた(笑)。
その中でも、「雲一号指令」の話が好きだったので、発作的に「雲一号」→「雲苺」となったという(笑)。
すごい、阿呆みたいというかイイカゲンです。
ところが「雲苺」だと“うんも”と読む人が多かったので、「苺」を抜いて雲だけにしたのだが、今でも古いネット上での知り合いは、私のことを「イチゴちゃん」とか、「イチゴっち」と呼ぶ人もいる(笑)。
閑話休題。
さて、『JAZZ“名曲”入門!―100名曲を聴く名盤340枚』を執筆した当時。
そのときの私は、出版社勤務のサラリーマンだったので、ペンネームを使う必要があった。
編集者の副業はマズかった上に、当時は、副編集長兼デスクというある程度責任のあるポジションだったので、本名出しての露骨な副業はマズかろうという判断もあった(ある程度、文章が書けるだろうと判断されがちな編集者や記者は、とくに文筆関係の副業に関しては厳しいところが多いのです)。
加えて、その時点ではすでに、発行しているメールマガジンの部数も2000部を越えていたし、「カフェ・モンマルトル」の定期訪問読者の数も安定したいたので、ジャズの本が出る際には、「雲」の名前をそのまま使ったほうが、通りが良いという判断もあった。
「雲」=「ジャズの人」という認識を定着させ、あわよくば、そのイメージを広めたいなという欲望もあったと思う。
だから、そのままネット上で名のっている「雲」のほうが、自分のメルマガやHPの読者には通りがいいし、読者の中の何人かはきっと本を買ってくれるだろうから、ペンネームは「雲」にさせて欲しい旨を担当編集のTさんにお願いしたのだった。
Tさんとは、中山さんの『マイルス自伝』や、後藤雅洋さんの『ジャズ・オブ・パラダイス』や寺島靖国さんの『新しいジャズを聴け!』の編集者でもあり、さらには講談社から出たJTB提供の『名演 モダンジャズ』の編集者でもある。
ちなみに『名演 モダンジャズ』に掲載された対談こそが、今後ジャズ業界を賑わす、吉祥寺(メグ)派 vs 四谷(いーぐる)派の「対立」のキッカケとなる記事だった。
この対談の後に、後藤さんが『ジャズ・オブ・パラダイス』に「不毛なジャズ論議に毒されるな~寺島靖国氏と争う」を書き、よりいっそう対立の図式が明確になったのだ。
とにもかくにも、このお二人の対談を、巧みに編集し、白熱したバトル仕立てに仕上げたのも、Tさんの編集手腕によるものだ。
長尺対談の中で、特に白熱した部分をクローズアップした編集をほどこし、さらには、“寺島、ここでグッと水割りを飲む”といった、まるでプロレスの実況中継のようなキャプションまでをもさらりと挿入させることによって、臨場感と緊迫感を底上げに貢献したのもT氏の編集力の賜物だ。
私が学生時代に後藤さんの店でバイトしたのも、また後藤さんの本を出した出版社でアルバイトをしたのも、T氏が編集して世に送り出した「ジャズ本」があったからこそなのだ。
ある意味、T氏が編集した数冊の本のおかげで、私の人生が狂ってしまったいっても過言ではない(笑)。
というのは冗談で、私を「バイトさせてください!」とアクティブな行動に駆り立てたるほどの本を編集し、世に送り送りだしてくれたT氏には感謝してもし足りないほどだ。
寡黙で温厚、しかし職人的手腕で要点をビシッと抽出するT氏は、私の思い描いていた編集者像そのままの人であり、学生時代から、憧れの編集者だったのだ。
そんなT氏からジャズについて「書いてみる?」と声をかけられたときは本当に嬉しかった。
T氏は、私がジャズについて書きためていたHP「カフェ・モンマルトル」を見てくれて、「少々センチでリリカルなところあり」という印象を抱かれたものの、嬉しいことに私を「使えるヤツ」と判断してくださったのだ。
ネット上で、「雲」名義でジャズのテキストを書き散らかしていたから「雲」のままのほうが通りがいいだろう、しかし「苗字がないとヘンだ、“高野”でいいか?」と助言してくれたのもT氏だった。
ちょうど、その頃の私は、退社した「高野」という編集者の穴埋め要因として月刊誌の編集部に異動していたこともあったし、「雲」に対して「高い野原=空」で、バランスもいいと感じたので、以来、ネット上だけではなく、ジャズについて書いたり話したりするときも、そのまま「高野雲」と名乗らせていただいている。
「雲」という名前で10年近く書き続けていたから、そのまま使い続けているだけのこと。
独立した今となっては、本名を隠すつもりはさらさらないが、もはやジャズに関しては本名よりもペンネームのほうが知名度が高くなっているから、ジャズ番組でもそのまま使っているだけなんだよね。
本業のほうでは、もちろん本名を使っているし、私が編集した本の奥付けには、当然ながら本名が記載されている。
ところで、以前、仕事場を尋ねてきたライター(作家?)志望の学生さんから、将来モノを書く際にはペンネームを持つ必要があるか? という質問を受けたのだが、私は持ったほうが良いと考えている。
本名とペンネームを使い分けのメリットはある。
これは、村上春樹と村上龍の対談『ウォーク・ドント・ラン』でも語られていたことだが、村上春樹は、本名で有名になってしまったので、ペンネームを持っておけばよかったと後悔している旨をこの本では語っていた。
病院や、税務署、銀行、免許書き換えなど、名前を呼ばれるところでは、いやでも注目を浴びてしまうのが苦痛らしい。
もちろん、私はペンネームがあるとて、村上春樹氏の100万分の1以下の無名の存在なので、そういった場所でのペンネームの有難さを享受しているわけではない。
私にとってのペンネームを持ったことの有難さは、それは気持ちの切り替えが素早くできること。これが大きい。
すごく単純なことなんだけれども、これはきわめて重要なことで、名刺の肩書きを変えただけで仕事へのモチベーションが一変してしまう人もいるように、“日常モード”と“ジャズモード”の心の中のスイッチの切り替えにはとても便利だということを最近、しみじみ感じている。
そして、今後はジャズモードになったときのペンネームで、今後ますます活動の領域を広げてゆこうと思っている。
もちろん、喜びと緊張感が入り混じりながら『JAZZ“名曲”入門!―100名曲を聴く名盤340枚』を書いたときの初心も忘れずに。
記:2007/04/28