イン・サン・フランシスコ/キャノンボール・アダレイ

   

フロリダからやってきた凄いサックス吹き

ジュリアン・キャノンボール・アダレイは、1955年に故郷のフロリダからニューヨークへやってきた。

6月19日の日曜日、彼は「カフェ・ボヘミア」を訪れた。

出演していたのは、オスカー・ペティフォードのバンド。

彼は、飛び入りで《アイル・リメンバー・エイプリル》を吹き、そのあまりにも素晴らしい演奏ゆえ、彼は一躍、注目のアルト吹きとなった。

パーカーがその年の3月に亡くなっていたことも手伝って、その直後(3ヶ月後)に突如としてあらわれた彼は、「パーカーの再来」とまで謳われ、無名のアルト吹きが、一躍注目を浴びるサックス奏者となった。

明朗で快活な透き通った音色。スムースに流れるような淀みの無いフィンガリング・テクニック。

パーカーの再来として注目されるのも無理もないと思う。

しかし、この周囲からの「眼差し」は、彼にとってプラスに作用したのかどうか。

たしかに、マイルスと禁欲的なトーンに貫かれている傑作『サムシン・エルス』を録音したし、マイルスのバンドで、コルトレーンと共にモード奏法のイディオムの研鑽も積んだ。

結果、『マイルストーンズ』や『カインド・オブ・ブルー』という名盤の一員として名を連ねることも出来たし、高い評価も受けた。

しかし、彼のやりたい音楽は、もっと別のところにあった。

それは、マイルスの音楽でもなければ、コルトレーンが目指した方向でもなかった。

キャノンボールが目指した路線は、もっと単純明快で、ノリの良いファンキーで、ソウルフルなジャズ。

この方向性を明確に打ち出したとも言える記念すべきアルバムが、『イン・サンフランシスコ』だ。

「第二のパーカー」として、チャーリー・パーカーに準えた眼差しでキャノンボールを捉えていた人から見れば、この明快で「分かりやすい」路線は、「?」だったのだろう。

実際、「ファンクの卸し商人」とこき下ろした評論家もいたようだし、このアルバムのことを「オーバー・ファンク(やりすぎ)」だと揶揄する人もいる。

しかし、方向性はどうであれ、演奏の質は極めて高いし、とても楽しめる内容だということに異論を挟む人はいないだろう。

弟のナット・アダレイをもう一人のホーンとして従え、黒いピアノを弾かせれば天下一品のボビー・ティモンズ、堅実で安定したグルーヴを提供するサム・ジョーンズ。当意即妙、柔軟性に富んだドラミングのルイス・ヘイズ。

彼らの5人の個性が、うまい具合に一つのアンサンブルとして融合されている。
熱気のある演奏と、盛り上がりはすごい。

特に、《ボヘミア・アフター・ダーク》の一丸となった推進力は特筆に値する。

《ジス・ヒア》や《ハイ・フライ》の“のたくり具合”も気持ちが良い。

全曲通して、5人は息のピッタリと合った演奏を繰り広げるが、ひとたびソロ・パートになると、全員が自由でのびのびとしたアドリブを取っている。

リーダーのキャノンボールはもとより、弟のナットのコルネットも、なかなか良いアドリブを展開していると思う。

ノリと熱気の溢れたこのライブ・アルバム。

こういった演奏は、是非ナマで接してみたかったと思う。

もっとも私が生まれるはるか前の出来事なのだが……。

記:2002/04/30

album data

THE CANNONBALL ADDERLEY QUINTET IN SAN FRANCISCO (Riverside)
- Cannonball Adderley

1.This Here
2.Spontaneous Combustion
3.Hi-Fly
4.You Got It!
5.Bohemia After Dark
6.Straight, No Chaser

Cannonball Adderley (as)
Nat Adderley (cor)
Bobby Timons(p)
Sam Jones (b)
Louis Hayes (ds)

Recorded live at the Jass Workshop in San Francisco
1959/10/18,20

 - ジャズ