《オール・オブ・ミー》は、ビリー・ホリデイの歌唱が最高!
《オール・オブ・ミー》という曲が好きだ。
単純明快で、親しみやすい名曲だと思っている。
曲の構造もシンプルで、楽器初心者も演奏するのはカンタン。
しかし、熟練者になればなるほど、このシンプルな曲にどう味付けを施そうかと頭を悩ますのではないだろうか。
料理で言えば、玉子焼きのようなものか。
シンプルで誰でもカンタンに作れるが、カンタンさゆえの難しさもある。
この曲は、古今東西のプロからアマまでの数多くのシンガーがトライしている。
その中でも、ビリー・ホリデイこそが、もっともオリジナリティあふれる歌唱をしている歌手の1人だろう。
彼女の節回しは本当に独特だ。
以前、ブルース好きの女性(ヴォーカル&ギター)と、バンドを組んでいたことがあるが、《オール・オブ・ミー》もレパートリーの1つだった。
この曲を、ライブのレパートリーに加えようかと、スタジオで初めて音合わせをした時のこと。彼女がギターをかきならしながら歌うこの曲の節回しには驚いた。原曲の面影を残しつつも、まるっきりフェイクをしたメロディ。
「おお、この人は天才か!?」と一瞬感じた。
シンプルなメロディの曲を、こんなにも陰影の飛んだメロディに変えているのだから。
しかし、待てよ?どこかで聴いたことのある節だな、と思ったら、やっぱり、彼女、ビリー・ホリデイをコピーしていた(笑)。
独創性あふれるメロディの“改変”は、やっぱり歌い手としても気になるバージョンだったようだ。
さて、そんなビリーが歌う独創性溢れる《オール・オブ・ミー》は、『ビリーズ・ブルース』で聴くことが出来る。
54年、初の欧州ツアー。
彼女の気まぐれな性格ゆえか、2人のピアニストがツアーへの同行を拒絶したという。
そして、白羽の矢が立ったのカール・ドリンカルドというピアニスト。
あまり聞かぬ名前だし、バッキングもちょっと雑なところもあるが、これだけのザワついた会場内で“立つ”ピアノで存在感をキッチリと確保しているところは、正しくライブ向けのプレイなのかもしれない。
そして、このツアーに同行したドラマーは、女性ドラマーのエレイン・レイトンだ。
このリズムセクションを従え、ちょっと投げやりで気だるくスイングするビリーの歌唱は、やはり彼女にしか出せない味だ。
短い演奏時間で、「え、もう終り?」と拍子抜けするほどだが、この短い時間の中にはビリーの陰影に飛んだ人生がたっぷりと封じ込められている。
明るい曲調、快活なリズムの中に、どこか気だるく深い影が落とされているのだ。
やぱり、ビリー・ホリデイこそ、シンプルだけども難しい《オール・オブ・ミー》を歌うことが許された数少ないシンガーなのではないかと思う。
だから私は、そんな《オール・オブ・ミー》が収録された『ビリーズ・ブルース』が大好きなのだ。
記:2007/03/12