アローン・アット・モントルー/レイ・ブライアント
ピーターソンの代役ピアニスト
1972年の、モントルー・ジャズ・フェスティバル。
この時のソロ・ピアノ・パフォーマンスによって、レイ・ブライアントは一躍、人気ピアニストになった。
レイ・ブライアントは、50年代から活躍し(つまり、このライブ出演の20年も前から)、いくつかの名演も残しているピアニストだったが、このようなイベントで注目を浴びるほどの知名度はなかったのだ。
しかし、人生何が幸いするか分からない。
本来ならば、オスカー・ピーターソンが出演する予定だったこのステージ、ピーターソンは、準備不足を理由にキャンセルをしてきた。
急遽、代役として白羽の矢を立てられたのが、レイ・ブライアントだった。
2500人の聴衆の心を鷲づかみ!
短時間で考えられるだけのアイディアを用意し、ブライアントはステージに臨んだ。
彼のキャリアにおいては、始めてのピアノ・ソロによるステージだ。
ジャズ・フェスティバルにやってきた聴衆の多くは、ピーターソンのステージを期待してやってきていたはずだ。
しかし、無名のピアニストがステージの上にあわわれて、一人でピアノを弾き始めたわけだから、「誰だ?あいつは?」と思った客も多かったことだろう。
しかし、彼は抜群のドライブ感のある演奏で、一気に2,500人の聴衆の心を鷲掴みにしてしまった。
最初は固唾を呑んで彼のピアノを聴いていた聴衆も、冒頭の《ガッタ・トラベル・オン》で一気にブライアントのピアノに引き込まれて、早くも一曲目から怒濤の拍手。
ブライアントも「いつもだったら、そろそろトリオのメンバー紹介をするところなんですが、今夜はご覧の通り必要なさそうですね」などとMCをして観客を沸かせる。
メリハリの効いた力強いタッチから生まれる、ノリの良いピアノ。
ドライブ感は抜群だ。
加えて、ゴスペルを連想させる和音の響きは、とてもアーシー。
加えて、左手の和音や、ペダルノートにおける迫力のある「ゴン!」という低音からは、かなり黒っぽいフィーリングが感じられる。
ブライアントの手、指さばき
レイ・ブライアントの大きな特徴の一つは、どす黒くギラリと光る、左手のタッチだと思う。
このギラリと黒光りする左手のタッチに、思いのほか上品で端正な右手の指さばき。
このバランスの妙が、下品になりすぎず、かつ、センチメンタルでか細い感じにならない、レイ・ブライアントならではの魅力になっていると思う。
そして、その個性が、ソロというフォーマットでより一層分かりやすく鑑賞出来るのが、この『アローン・アット・モントルー』だ。
両手の平を大きく広げた、まるで怪しい手品師のようなブライアントを大写しにしたジャケットも、なかなかグー(笑)。
まったく関係ないんことなんですが、ブライアントの左手の手相を見ると、生命線、頭脳線、感情線の3つの線が、私の左手の手相と瓜二つなんです。
記:2002/06/11
album data
ALONE AT MONTREUX (Atlantic)
- Ray Bryant
1.Gotta Travel On
a) Blues #3
b) Willow Weep For Me
2.Cubano Chant
3.Rockin' Chair
4.After Hours
5.Slow Freight
6.Greensleeves
7.Little Susie
8.Until It's Time For You To Go
9.Blues #2
10.Liebestraum Boogie
Ray Bryant (p)
1972/06/23