アマンドラ/マイルス・デイヴィス

      2022/08/07


AMANDLA/Miles Davis

3年殺しのアルバム

マイルス・デイヴィスの『アマンドラ』は、私がはじめてリアルタイムで(発売日に)買って聴いたたマイルスのアルバムだ。

第一印象は「ポップやなぁ~」。

これを聴く前には、『ビッチェズ・ブリュー』などの過去の重厚なアルバムばかり聴いていたこともあって、なおさらそう感じたのでしょう。

ところが、この『アマンドラ』は3年殺しのアルバムなんですね。
3年寝かしていたら良さが染みてきた(笑)。

リズムが良い

最初はポップで軽いかな、と思っていた曲群も、軽かったりするのはシンセなどの表層的な音色だということに気が付き、じつは聴きこめば聴きこむほど(寝かせれば寝かせるほど?)、じつは、十分な厚みと重みを持った音楽だということが分かってくるんですね。

その秘密は。リズムの良さ。

このアルバムの音楽的強度を形成しているのは、リズムで、だから、今聴いてもきちんと鑑賞にたえうる作品なのではないかと3年経って気付くに至ったわけなのです。

当時のマイルスが目をつけていたリズムは、ワシントンD.C.を中心に盛り上がっていたゴーゴーのリズム。

そこで、彼が目をつけたドラマーは、リッキー・ウェルマン。

彼のドラミングは、4ビートのような揺らぎはなく、また、フュージョン系16ビートのようにトタパタと小忙しい感じでもない。

もっとタイトでカッチリとしており、だからといって打ち込みのリズムとは違うヒューマンなグルーヴがある。

と同時にドッシリと地に足をつけた安定感も。

50年代ハードバップに多い4ビートのタメや引きずるようなグルーヴ感とは趣を異にするグルーヴ感ゆえ、私の場合、耳慣れるまでは時間が必要だったのでしょう。

音楽の根っこの部分であるリズムが強固だと、不思議と飽きがこない音楽が多い。

表面的な音色や、SEの使い方、あるいはアレンジが古臭く感じたとしても、その音楽の器を形成するリズムがしっかりとしていれば不思議と古びて聞こえない、いや、古びて聞こえることもあるけど、飽きずに鑑賞できるものが多いんですね。

そのもっとも顕著な例がYMOの音楽だと思いますが、マイルスの『アマンドラ』も、リズムの良さゆえに時代が経っても古びない、まさに典型だと思います。

個人的には名作とされる『ツツ』や、晩年の代表的なステージ・レパートリーが収録されている『ユア・アンダー・アレスト』よりも、今となっては色褪せることなく聴き続けられる作品なのではないでしょうか。

ケニー・ギャレット

また、ケニー・ギャレットのわかりやすく「アウト」をするアルトサックスも『アマンドラ』にアクセントを添えているようにも感じる。

彼の「アウト」の仕方、つまり調整から逸脱の仕方は、とてもわかり易い。

アウトしても、すぐに調整領域に戻ってくるので、外れた箇所のフレーズが非常に効果的なアクセントとして頭に残るんですよね。

もっとも、これが繰り返されると、だんだん食傷してくるんだけど(笑)。

特にマイルスバンドのライブ映像などを見ているとその傾向が顕著なんですが、アルバムの場合だとソロパートが短いため、飽きる前に終わってくれる。

この按配が、この時期のマイルスのトランペットとよい意味での対比効果、演奏上のアクセントとして華を添えているのではないかと感じます。

夏にギラギラ《カテンベ》が良い

『アマンドラ』を買った年は、それこそたくさん聴きました。
特に夏にたくさん聴いた記憶があります。

だからなのだろうか、夏が来るたびに、しかもギラギラと暑い夏になればなるほど、『アマンドラ』が聴きたくなってくるんですね。

オープニングの《カテンベ》のミュート・トランペットの数音を聴きたくなる。

太陽ギラリ⇒《カテンベ》の最初の数音!

もうこれはパブロフの犬のような条件反射のようなものなのかも。

私にとっては、そんなアルバムです、マイルスの『アマンドラ』は。

記:2012/08/14

album data

AMANDLA (Warner Bros.)
- Miles Davis

1.Catembe
2.Cobra
3.Big Time
4.Hannibal
5.Jo-Jo
6.Amandla
7.Jilli
8.Mr. Pastorius

Miles Davis(tp)
Kenny Garrett (ss,as)
Rick Margitza (ts)
George Duke (key,synclavier,arr)
Joe Sample (p)
Joey DeFrancesco (key)
Jason Miles (syn, syn programming)
John Bigham (g,key,drum programming,arr)
Steve Khan (g)
Michael Landau (g)
Billy Patterson (wah wah guitar)
Jean-Paul Bourelly (g, per)
Marcus Miller (b,bcl,g,arr)
Foley (b)
Ricky Wellman (ds)
Omar Hakim (ds)
Al Foster (ds)
Don Alias (per)
Bashiri Johnson (per)
Mino Cinelu (per)
Paulinho Da Costa (per)

1988/09月 - 1989/01月

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