アンプリファイド/今沢カゲロウ
2021/02/09
フェンダーオールドが発する「ぬくもり」
従来の彼が「ベース忍者」だとすると、今回の彼は「ベース詩人」といえるかもしれない。
孤高のベースプレイヤー今沢カゲロウ。
彼は、ベース一本で世界を股にかけてライブをしまくり、日本よりも、むしろ、欧米で評価の高いベーシストだといえるかもしれない。
なにしろ、ベース一本で、「ここまでやるか!」な、驚くべきテクニックとタイム感、センスの持ち主なのだ。
彼の今までのアルバムは、どちらかというとインダストリアルな印象の強いサウンドだった。
ところが、今回のこのアルバムには、今までと違うぬくもりがある。
今までの感覚がデジタルっぽさだとすると、今回の感触は、限りなくアナログだ。
それもそのはず、今回の彼は、ヴィンテージのジャズ・ベースのみを弾いているのだ。
しかも、ベースアンプではなく、ギターアンプを通して音を出しており、シンプルかつ、スローな曲を中心に演奏している。
実に温かみと生々しさがある。
私もフェンダーの愛好者。
しかも持っているベースは、オールド。
技術やテクノロジーの進化に比例して、パソコンやテレビなどの製品は、より廉価に、より性能がアップしてゆく。
ところが、楽器には必ずしもそれは当て嵌まらない。
不思議なことに、フェンダーのヴィンテージものには、ヴィンテージにしか出せない、音、風格があるのだ。
これは、いくら逆立ちしても、現行のコピーモデルにはマネの出来ない味だ。
そして、この音を前にすれば、今までの超絶テクニックを駆使する必要など無い、このことをいち早く見抜いたのは、今沢カゲロウ自身だった。
最上の音を最上に料理する。
その一つの解答が、このアルバムのサウンドだ。
ヴィンテージ・フェンダーの持つ独特なサウンド、独特なテイストを嗅ぎ分けることの出来る人、そして、このニュアンスを愛してやまない人にとっては、こたえられないサウンドなんじゃないだろうか。