ウォーター・フロム・アンシャント・ウェル/アブドゥーラ・イブラヒム(ダラー・ブランド)
アンサンブル主体、控えめなピアノ
ダラー・ブランド(アブドゥーラ・イブラヒム)のドキュメント・フィルム、『わが祖国・わが音楽』で流れていた《マネンバーグ(マネンベルグ)》の、シンプルで力強いメロディが強く印象に残り、これを聴きたいがために購入したアルバム。
このアルバムの中でイブラヒムは一切ピアノソロを弾いていない。最初から最後まで、バッキングに徹している。
しかも、そのバッキングも非常に控えめで、注意して耳を澄まさないと聴こえないほどだ。
『アフリカン・ピアノ』で聴けた、強烈なパーカッシブな打鍵奏法は影をひそめ、まるで、演奏の中に溶けこもうとしているかのようだ。
そして、自身のプレイよりも、自分のバンドが美しいサウンドを生み出すための"触媒"になろうとしているようにも感じる。
このアルバムを聴いていると、とても落ち着いた気分になれる。
もちろん、ワクワクする曲もあるし、興奮する曲もあるが、一糸乱れぬ、控えめなアンサンブルゆえか、そして、メロディもアレンジも非常に丁寧で、「正直」でストレートなためか、心が洗われるような気がする。
《マウンテン》の素朴なメロディは、日本の民謡やわらべ歌にも通じるところがあり、優しくつつむような柔らかい旋律には、ついつい涙腺が緩んでしまう。
タイトル曲の、《ウォーター・フロム・アンシャント・ウェル》とは、「古代の泉から湧き出る水」といった意味。
この曲を聴くたびに映画の最後のイブラヒムの静かで力強い言葉、「近い将来、アフリカにも緑がもどる」という言葉を思い出す。(冒頭の「ジャズはサムライだ!」という言葉もかなりインパクトだったが……)。
地味ながらも、聴くごとに味わいの増す素晴らしいアルバムだ。
記:2002/03/02
album data
WATER FROM ANCIENT WELL (Enja)
- Dollar Brand (Abdullah Ibrahim)
1.Mandela
2.Song For Sathima
3.Monenberg Revisited
4.Tuang Guru
5.Water From An Ancient Well
6.The Wedding
7.The Mountain
8.Sameeda
Abdulah Ibrahim(p)
Carlos Ward(Alt.fl)
Ricky Ford(ts)
Charles Davis(bs)
David Williams(b)
Ben Riley(ds)
1985/10月