クラブ・ベイビー・グランドのジミー・スミス vol.1/ジミー・スミス
オルガンに似合うホレス・シルヴァーの《ザ・プリーチャー》
ブルーノート1500番台には、ジミー・スミスのリーダー作が13枚ある。
アルフレッド・ライオンは、当時無名だった30歳のオルガン奏者にはよほど入れ込んでいたことが分かる数字だ。
ジミー・スミスのオルガンを聴くたびに思うことは、もうジャズ云々ではなく、彼の繰り出すサウンドは黒人音楽そのものだ、ということ。
元より電子オルガンは、ハーレムなどの教会に設置され(小規模で予算の少ない教会にはパイプオルガンのような重厚な設備は置けなかった)、黒人の生活の身近に存った楽器。黒人はオルガンの音が好きなのだ、というよりも、オルガンの音色そのものが生活の中に根差しているのだろう。
となると、きっとジミー・スミスのリーダー作をハイペースで録音し、次々と世に送り出したブルーノートのオーナー、アルフレッド・ライオンも、ジャズが好きというよりは、ドイツ人の血が騒ぐヨーロッパにはない要素、すなわち“黒い音(ブラックミュージック)”が好きだったのだということが、改めてよく分かる。
彼はレコーディングの際は、リーダーとなるミュージシャンには必ずブルースを演奏するよう注文したというし、晩年のアルフレッドは、マイケル・ジャクソンや、復帰後のマイルスのことも評価していたという逸話からも、生涯通じてジャズ好きというよりは、ブラックミュージックそのものが大好きだったのだろう。
だからこそ、まるでブラックミュージックのエッセンスを体現しているジミー・スミスという才能と、オルガンのサウンドに惚れこみ、まだジミーの評価が世間的に確立していないうちから、売れる・売れないなどを考える間もなく、次から次へと録音を繰り返したのだろう。
この「クラブ・ベイビー・グラウンド」のライブでは、ホレス・シルヴァーの《ザ・プリーチャー》が演奏されている。
個人的には、『ホレス・シルヴァー・アンド・ザ・ジャズ・メッセンジャーズ』で演奏されているバージョンは好きではないのだが、オルガンの音色で演奏されたこのナンバーは悪くはない。
というより、管楽器が奏でるテーマのメロディはどうしても安っぽく感じてしまうのだが、一転してオルガンの音色で奏でられる旋律を聴いていると、もしかしたらシルヴァーは最初からオルガンで演奏されることを念頭に作曲したのではないかと思ってしまうぐらい、しっくりとくるのだ。
以前、私の番組にゲスト出演していただいたEMIミュージックジャパンの行方均氏が、ハードバップの大きな特徴として「黒人音楽が持つ“歌”の要素の復権」を掲げ、ホレス・シルヴァーの《ザ・プリーチャー》を選曲されていたが、このような予備知識の補助線を得た上で、改めて黒人音楽そのものの楽器であるオルガンが奏でる《ザ・プリーチャー》を聴くと、なるほどブラックミュージックそのものに聴こえてくる。
ライオンは、ホレス・シルヴァーのリーダー作のレコーディング時には、この曲の録音を「俗っぽいメロディだから」ということで反対したそうだが、ジミー・スミスがオルガンで奏でた《ザ・プリーチャー》は、どういう心境で聴いていたのだろう?
記:2010/12/19
album data
THE INCREDIBLE JIMMY SMITH AT CLUB BABY GRAND VOL.1 (Blue Note)
- Jimmy Smith
1.Introduction By Mitch Thomas
2.Sweet Georgia Brown
3.Where Or When
4.The Preacher
5.Rosetta
Jimmy Smith (org)
Thornel Schwartz (g)
Donald Bailey (ds)
1956/08/04