ビッグ・ウェンズデイ 80'/トロン
2016/11/23
tronの『Big Wednesday』がいい。
夏に聴くともっとよかったんだろうけれども、秋の夜長にもいいんじゃないかな。
最初に1曲目を聴いたときは、打ち込みだと思った。
ところが違うんだね。
全部人力、なのだそうで。
シンセのアルペジオも打ち込みじゃなくて人力なのかな?
だとしたら、そうそうな“尽力”だ。
ツイン・ボーカル、
ツイン・ベース、
ツイン・ギター。
これで、ドラムもツインだと、まるで、オーネット・コールマンのプライムタイムみたいだけれども、もちろん、発想は全然プライムタイムとは違う。
プライムタイムのツイン楽器は、トーナルを同一とする即興演奏の中から生み出される微妙なズレと綾を戦略的に打ち出す一つの“生々しさとハプニングを生みだすシステム”なことに対し、トロンのツインは、あくまで、アンサンブルの一体感を目指した、徹頭徹尾ストイック(送り手)でありながらも、徹底的に快楽な(聴き手)、重層的で深くてメロウなポップスなのだ。
とくに、5曲目の《veranda》がちょっと感動的。
お涙頂戴映画の、感動のクライマックスに是非使って欲しい。
『世界の中心で』で使えば、平井堅以上の効果が、『四日間の奇蹟』で使えば、平原以上の効果が(映像が完璧に音楽に負けるだろう…)、『同じ月』で使えば、久保田以上の効果が見込めるに違いない。
ただし、この曲に関していえば、ナイーヴ過ぎるヴォーカルには好き嫌いが分かれるだろうが、一つの音色だと思って聴けば、見事に肉厚なバックのトラックと溶け合っていることが分かるだろう。
そう、一聴、か細く感じるジョニー・コールズのトランペットも、肉厚で凶暴なミンガスのアレンジとリズムにピッタリと合い、ギル・エヴァンスの重層的なオーケストラルアレンジにピッタリと溶け合うのと同じように。
さて、話かわって、先述したダブルベース、ダブルギター、ダブルドラムスのオーネットの話ですが、個人的には、このようなフォーマットで演奏されているアルバムは『ヴァージン・ビューティ』をおススメしたい。
突拍子もないズレと、偶発的なハプニングが、滅茶苦茶心地のよいオーネット・コールマンの名盤。大学生のときは、ほんと、スリ切れるまで聴いたものだ。
現代最高のファンク・ミュージックとピーター・バラカン氏が評したのも頷ける。
踊れます。2曲目のブルジョア・ブギが大好き。
フレットレスベース奏者は必聴だぜい。
このか細い「チャルメラ・ラッパ」で、ミンガス、ドルフィーなど、アクの強すぎる面子に対して、一歩も引けをとらない存在感。
凄いぞ、コールズ!
こちらでもコールズは絶妙な按配でオーケストラに溶けてます。
たまには、このようなカッコ良くて、センスの良い知的な音を聴いて、あなたの音楽を聴く耳の偏差値とセンスをアップさせよう。
記:2009/03/08