黒いヴェルヴェット・アンダーグラウンドの女
2021/02/19
ローファイ感
『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』を久々に聴いた。
いやぁ、良いわ。
《宿命の女》だけを聴こうと思ったんだけど、結局全部聴いちゃったよ。
なにがいいって、あのギターの音。
ローファイ感ってやつ?
曇りガラスを指で引っかいたような、ガリガリで、割れたような音。
それに、サウンド全体に薄い膜のように覆いかぶさる、ピントのズレたようなエコー。
たまには、こういうサウンドもイイ。
とくに、《僕は待ち人》とか《ラン・ラン・ラン》なんか最高だよね。
少なくとも、クリーンで伸びのあるトーンよりは、こういう音のほうが大好き。
音色だけで聴けちゃうロックだよ、これは。
脳と背中(?)がヘンな感じでムズムズと興奮してしまう。
暗闇と光
その昔、私がベースを始めた直後に組んだ「2番目のバンド」のヴォーカルの女性が好きだったアルバムだ。
自己演出か天然か、おそらくはその両方だとは思うが、夏でも全身真っ黒ずくめの格好しかせず、精神病院に通っていることと、敬虔なクリスチャンだということを「売り」にしている人だった。
いつも、ウォークマンでヴェルヴェット・アンダーグラウンドのバナナのジャケットのアルバムを聴いていた。
「聴いてみる?」
ある日、彼女はウォークマンの中のテープを私にくれた。
聴いた。
最初はピンとこなかった。
しばらくして、彼女の行方が分からなくなったので、バンドは自然解散というカタチになってしまったが、そのとき、ふと思い出して、彼女からもらったカセットテープを聴いた。
なんだか暗闇の中から音が浮かび上がるような気がした。
数年後、「“私、結婚したんです”という女の人から電話よ」というお袋の声で昼寝から目を覚ました私は、首をかしげながら受話器を取った。
彼女からだった。
半年前に結婚したこと、もう子供がいること、友人の家の近くのアパートに住んでいること、などなど、自分の近況をひととおり喋った後、「まだベース弾いているの」と質問してきた。
「うん」
私はこたえ、
「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、まだ聴いている?」
と私は尋ね返した。
「ううん、そういえば、全然聴いてない」
彼女は言った。
ほどなく電話の会話は終了。
部屋に戻りホコリのかぶったカセットテープを聴いてみた。
今度は、不思議なことに、光の中で音が浮かび上がっているように聞こえた。
記:2009/07/12
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