ブルー・ライツ vol.1/ケニー・バレル

   

バレルも良いがリズムセクションも良い

スローブルースの《イエス・ベイビー》が好きだ。

管楽器がユニゾンで奏でるテーマの気だるい旋律が飛び出し、数秒後にピアニスト、デューク・ジョーダンが奏でる重たい和音が「ゴリン!」と一音。

この黒い「ゴリン」がダークでたまらない。

そして数秒後に、また絶妙なタイミングで「ゴ・ゴン!」とくる。

和音が発せられるタイミングといい、濁った音色といい、重量感といい、まさにこのまったりとしたブルースの気分を引き立ててくれている。

デューク・ジョーダンが時おり放つほの暗さが、このブルースの演奏を貫く重要なムードとなっている。

ついで、このブルースの「たまらん」ところは、テーマからギターソロに以降する際の4小節のブレイクだ。

このアルバムのリーダー、ケニー・バレルがアドリブの先陣を切るのだが、その際、最初の4小節は、リズムセクションの伴奏が抜け、無伴奏に近い状態になる。

かろうじてベースのサム・ジョーンズが小節の頭の拍に1音だけ低音で時間に楔をゆるりと打ちこみ、アート・ブレイキーもハットやスネア、あるいはスネアのリムなどを使い分けながら小ボリュームでベースの1拍目とタイミングを合わせて発するのみ。

この空白を埋め尽くそうとはせずに、むしろ余白を強調するかのように適度な緊張感をたたえながら、しっとりと蒼色のギターを奏でるバレルのプレイが艶やかで色っぽい。

たった4小節の空白だが(といってもスローテンポなので、たっぷりとした時間にも感じるが)、なかなか効果的な演出だ。

この曲を何度か聴いているうちに、だんだんとこのソロ前のブレイクが待ち遠しくなってくるほどなのだ。

ちなみに、デューク・ジョーダンのみソロ前のブレイクはなしで、最初からベースもドラムスも伴奏している。

さらに注目したいのがアート・ブレイキーの柔軟なドラミングだろう。

スローなブルースゆえ、単調なバッキングばかりが続くと間の抜けた締まりのない演奏になることを誰よりも恐れるのはおそらくはドラマーだと思うのだが、そのあたりの間の抜けないバッキング処理はさすがにベテラン、細やかなところまでに神経が行き届いている。

たとえば、テーマ。

最初のテーマにおいても最後のテーマにおいても、少しタイミングをズラしたフィルインを効果的に入れることで、演奏のマッタリさを防止する気付け役的な効果を果たしている。

また、シンプルだが効果的なフィルインを随所に入れるセンスにも注目したい。

たとえば、ケニー・バレルのギターソロの後半に登場する「ズタタ・ズタタ・ズタタ・ズタタ」といった4拍を埋め尽くす3連のフィルインなどは、初心者がジャズドラムをはじめて3日目か1週間目ぐらいに最初に習うであろう4ビートのドラミングにおける、もっともシンプルで簡単なフィルインのパターンなのだが、御大アート・ブレイキーが叩けば、こうもカッコ良く、効果的なドラミングになるのかと驚くこと請け合い。

また、これはアート・ブレイキーの専売特許とでもいうべき技で、様々な演奏で顔を出す「倍テン(倍速テンポにチェンジして演奏を盛り上げること)」だが、《イエス・ベイビー》でもルイ・スミス奏でるトランペットソロでも効果的に用いられている。

まず、ルイ・スミスがソロの時に倍速に刻むという選択眼が素敵だ。

スミスのトランペットが本質的に持つ軽やかさをと滑らかさを、ブレイキーお得意の「倍テン」が巧みに引き立てているのだ。

ジョーダンのバッキング、
アドリブ前の4小節のブレイク、
アート・ブレイキーのドラミング

とりあえずは3つ。

アンディ・ウォーフォールのイラストがジャケ絵となっているケニー・バレルのリーダー作『ブルー・ライツ vol.1』に収録されたスローブルース《イエス・ベイビー》のオイシイ箇所を書きだしてみたが、まだまだオイシイ聴きどころは10も20も凝縮されていて、正直、書き出すとキリがないほどなのだ。

つまり、たった1曲においても書ききれないほどのオイシイ具がつまっているということは、アルバム全体には、それこそ無数にジャズ好きにとっては「たまらん」部分が満載されているということでもある。

コテコテに陥る1.5歩手前の重さ、粘り、ブルージーさ。

この匙加減、按配が絶妙すぎるほど絶妙なブルーノートによるブルーノートらしいアルバムの1枚。それがケニー・バレルの『ブルー・ライツ』なのだ。

記:2011/03/02

album data

BLUE LIGHTS VOL.1 (Blue Note)
- Kenny Burrell

1.Yes Baby
2.Scotch Blues
3.Autumn In New York
4.Caravan

Kenny Burrell (g)
Louis Smith (tp)
Junior Cook (ts)
Tina Brooks (ts)
Duke Jordan (p)
Bobby Timmons (p) #3
Sam Jones (b)
Art Blakey (ds)

1958/05/14

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