中山康樹の隠れ名著『超ボブ・ディラン入門』を読め!

   

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お笑いモード

『超ボブ・ディラン入門』!!
これを読まずして、「中山ファン」を語るなかれ!

超ボブ・ディラン入門超ボブ・ディラン入門

故・中山康樹さんの文体には、「シリアスモード」の文体と、「お笑いモード」の文体があります。

もちろん、その中間のものもありますが、私はどちらかというと「お笑いモード」で書かれた中山さんの著作が好きですね。

一番良い例が『マイルスを聴け!』の初版本でしょうね。

『かんちがい音楽評論』のように、最近は、どちらかというとシリアスモードの本が多かった気がしますが、いずれにしも、中山さんの「筆力」はハンパなく、時には、さして興味のない題材を取り扱っている場合でも、結局最後まで「読ませてしまう」だけの実力をお持ちの方でした。

作家・中山康樹

私は中山さんのことを「企画から編集、さらには鋭い音楽評論から、書き物まで何でも、こなせちゃうマルチな才能の持ち主」だと思っていますが、単に「いち文筆家」として中山さんを捉えたとしても、非常に優れた作家だと思うのです。

その良い例が、『超ボブ・ディラン入門』です。

みんな読んだ?

読んでない人は、急いで読もうぜ。

特に『マイルスを聴け!』の初版本の「お笑い勢いムード」が大好きな人にとっては、すいすい読めるとても楽しい本です。

ボブ・ディランのファンにとっては「目ウロコ本」でしょうし、ボブ・ディランを知らない人が読んでも、ボブ・ディランに興味を持つことは必至でしょう。

実験的に、この本が発売された年に、私はディランの「ディ」の字も知らないような人に、第一章だけを読ませたことがあるのですが、感想は、

1、面白い
2、なんだかボブ・ディランの歌を聞いてみたくなった

でしたから。

詳しく知らない人のことについて書いているはずなのに、気が付くと結局最後まで笑顔で読ませてしまう。

そんな筆力を持った作家って滅多にいません。

「面白かった。じゃあCD買って聴いてみよっかな」

そういう気分にさせてくれる「音楽の文章」を書ける人って、今の世の中、そんなに多くないと思うんですよ。

ドヤ顔的なデータの羅列だったり、個人的体験談の累積だったり、紋切り型でデジャヴ感漂いまくりの古色蒼然とした表現だったり、と。(あ、今、自分で書いてて指がとても痛いです……)

しかし、そんな閉塞感とマンネリ感が太古より漂いまくっている日本の音楽評論に心地よく風穴を開けてくれた「ジャズジャズ快男児」こそが、中山さんの『マイルスを聴け!』だったのです、私にとっては。

『マイルスを聴け!』や、『超ボブ・ディラン本』は、ミュージシャンのことについて知りたいという欲求よりも、中山さんの文章を味わいたくて、再読を繰り返しているのかもしれません。

ユーモア文体

私、いい年して、北杜夫の『船乗りクプクプの冒険』や、『さびしい王様』、『ぼくのおじさん』などの作品、たまに再読しているんですね。

小・中学生の頃から愛読している本なのですが、すごくユーモアがあってワクワクする。

同列に並べるのもヘンですが、中山康樹さんの「ユーモア文体」の本を読んでいるときのワクワク感は、私にとっては、北杜夫の児童向け文学を読んでいるときに感じる楽しさに通じるものがあるんですね。

北杜夫の『クプクプ』を読むと、冒険に出たくなりますが、中山さんの『ボブ・ディラン』を読むと、渋谷か新宿の「タワーレコード」に行きたくなる(笑)。

とにかく、部屋の中から屋外に連れ出すだけの力を持っていると思うんですよ。

本当に惜しい人を亡くしたと思います。

最近はシリアス文体が多かったので、そろそろミュージシャンに対しての愛情がこもったユーモア本を出して欲しいなと思っていた矢先の訃報だったので、今はもう遺された著作を読み返すしかありません……。

『ジャズ地獄への招待状』の岩波洋三評のように少し毒が混入されたユーモア文体も好きですが、中山ファンが、「今」読み返すべき本は、やっぱり『超ボブ・ディラン』入門なんじゃないかと思うんですよ。

記:2015/02/15

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