アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック/ウェザー・リポート

   

硬派なウェザー

ポップでメロディアスな《バードランド》で有名な『ヘヴィ・ウェザー』しか知らない人にこそ、強くお勧めしたいアルバムだ。

これを聴けば、ウェザー・リポートに抱いている“キャッチーな音楽をやっているグループ”というイメージが完全に覆されるのでは?

この混沌としたサウンドは、エレクトリックを導入後のマイルス・デイヴィスのサウンドにも通ずるエグさもあり、また、フリージャズ的な要素も垣間見ることが出来る、複雑かつ重層的な音空間だ。

一言、硬派。

ライヴの《ディレクションズ》が良い!

知人からこのアルバムを借り、初めて聴いた瞬間から、「なんだ、こっちのほうが『ヘヴィウェザー』よりも自分好みじゃん」と感じた。

『アイ・シング・ザ・ボディ・エレクトリック』は、まだベースがジャコ・パストリアスではなく、ミロスラフ・ヴィトウスだった時期の、ウェザー初期の作品だ(第2作目)。

この時期のウェザー奏でるサウンドは、“シンセを入れた実験ジャズ”といったニュアンスが強い。そして、これがまた、たまらなく幻想的で荘厳ですらあって、たまらなく魅力的なのだ。

レコード上では、A面がスタジオ録音、B面が東京の渋谷公会堂でのライブ録音という構成になっている。

ライブの演奏は長尺だが、スリリングな内容だ。

ただし、演奏に没入していると、途中で日本語の司会者の声が出てくるので、一瞬ギョッとする。ムードぶち壊しな感がなきにしもあらずではあるが、《ディレクションズ》の演奏の素晴らしさの前には、さりとて気にするほどでもない。

スタジオ録音のバージョンは、曲によっては、コルトレーンの研究でも有名なアンドリュー・ホワイトや、ギターのラルフ・タウナーも参加しているので、興味深い。

あと、特筆すべきが、ヴィトウスのウッドベースだ。

ウェザー・リポートのベーシストといえば、ジャコ・パストリアスばかりが語られがちだが、ヴィトウスのベースだって凄い。

硬質なノリ。ときに凶暴、ときに大胆なエフェクト。

一体、なんでこんな音を出すんだろう思ってしまうほど、常人の発想と感受性では計り知れないほど不可解なラインを奏でる瞬間もあり、一度気になりだすと病みつきになってしまうタイプのベーシストだ。

彼は、ジャコとはまったく違うタイプのベースだが、ヴィトウスのイマジネーション豊かなベースプレイは、この時期のミステリアスなウェザーのサウンドの大きな核になっていることは疑いようもない。

とにかく、イマジニティブ。
そして、どこまでも挑発的なベースだ。

私は、この1枚を聴いてからウェザー・リポートが好きになった。

ポップでキャッチーなバンドだけではないことを痛感させられた一枚だ。

ちょっとレトロなSF調のジャケットも良い。

記:2003/06/02

album data

I SING THE BODY ELECTRIC (Columbia)
- Weather Report

1.Unknown Soldier
2.The Moors
3.Crystal
4.Second Sunday In August
5.Medley
6.Vertical Invader/T.H./Dr.Honoris Causa
7.Surucucu
8.Directions

Joe Zawinul (key)
Wayne Shorter (reeds)
Miroslav Vitous (b)
Eric Gravatt (ds)
Dom Um Romao (per)
Andrew White (english horn)
Hubert Laws,Jr. (fl)
Wilmer Wise (D and piccolo trumpet) Yolande Bavan,Joshie Armstrong,Chapman Roberts (singers)
Roger Powell (consultant)
Ralph Towner (12strings guitar)

#1,2 1971/11

#3,4,7 1972/01

#5,6 1972/01/13
Recorded live in concert in Shibuya Kokaido Hall,Tokyo,Japan

 - ジャズ