ブッカー・リトル/ブッカー・リトル

   

深みのあるトランペット

ブッカー・リトルのトランペットの音色は、常に形容したがい哀しさを湛えている。

色にたとえると「青」というよりは「蒼」。

この色彩は、晴れて澄み渡った秋空の深みを思わせるものがある。

彼は、エリック・ドルフィーとの双頭コンボを組み、ファイヴ・スポットで、歴史的な名演を残したり、同じくドルフィーをサイドマンに迎え『アウト・フロント』というリーダー作を吹き込んだりと、かなり先鋭的なこともやっていたトランペッターだが、どんな演奏においても、彼のトランペットの音色は、ほんのりと一抹の哀しみを帯びた「ブルー=蒼」に彩られていることには変わりがない。

そいうえば、このアルバムにも《ライフ・イズ・ア・リトル・ブルー》というタイトルの曲がある。

なんて良いタイトルなのだろう。

まさに彼のトランペットそのものではないか。

そして、この音色とフレーズが、とてもこちらの心に「来る」のだ。

彼のトランペットの特徴は、マイルスのようなトランペットとは違って、抑揚があまり無い。細かいところにまで微妙なニュアンスを込めず、どちらかというと“ぷわぁぁ~”と、一本調子で吹く感じがする。

しかし、だからといって単調なわけではない。

飴色のツヤをした、蒼色の音そのものが魅力的なのだ。

このアルバムはマイナー調の曲が多いが、このような独特の音色で吹かれているので、哀しくないのに、じんわりと哀しい気分になってくるので注意が必要だ。

しかし、マイナー調の曲だけではない。

《ザ・グランド・ヴァルス》という曲。この曲はメジャーだ。

ドルフィーとの共演で、「ファイブ・スポット」のライブでも演奏されている。

演奏の模様は『メモリアル・アルバム』に収録されているが、なぜかタイトルが違っていて、この時のタイトルは《ブッカーズ・ワルツ》だが、曲は同じだ。

このアルバムの演奏は、賑やかで華やかな『メモリアル・アルバム』の演奏よりも、グッとテンポを落として演奏されている。

この曲のメロディを、語りかけるように、一本のラッパでしみじみと吹かれると、マイナー調ならずとも、ジワリと哀しい気分になってくる。

この演奏は、何か哀しいことがあった時には聴かないほうが賢明かもしれない。哀しみが増幅される可能性がある。

音色、語り口とともに、蒼く、物哀しいブッカー・リトル。

そんな彼の資質がもっとも良く出たアルバムがタイム盤の『ブッカー・リトル』なのだと思う。

この音色と、この旋律。

秋の夜長に、ひっそりと耳を澄ますのも良いかもしれない。

パーソネルも特筆に値する。

ベースがビル・エヴァンスとのインタープレイで有名なスコット・ラファロ。

このアルバムでは、堅実な4ビートに徹したバッキングだが、ベースライン作りのセンスの良さも味わえる。安定したビートを奏でる彼もなかなかだし、心地よい。

ドラムのロイ・ヘインズも繊細でなドラムワークで、あくまでフロントを立てるプレイに徹しているので、好感が持てる。

ピアニストは2人。
トミー・フラナガンとウイントン・ケリーだ。

ケリーは3曲目と4曲目、残りの曲はフラナガンという分担となっている。

フロントをのせるタイプのケリーに、フロントを支えるタイプのフラナガン。

バッキングのタイプは微妙に異なるが、2人ともバックに回ればピカイチのサポートをするセンスの良いピアニストなことには変わりがない。

個人的には、『ザ・グランド・ヴァルス』のフラナガンのピアノソロが好きだ。

ところで、このアルバムのジャケットは、とても素敵だ。

トランペットの3本のバルブの部分をクローズアップした手描きのイラストだが、シンプルながら、とても味わいの深いイラストだと思う。

手描きのトランペットといえば、マイルスの『クッキン』のジャケットもそうだ。

このジャケットも私はお洒落で大好き。

マイルスといえば、60年代のマイルス・クインテットのメンバーに、ウォレス・ルーニーがトランペットで加わった『ア・トリビュート・トゥ・マイルス』のジャケットのトランペットも、味のあるタッチのイラストだった。

そういえば、「いーぐる」というジャズ喫茶のロゴマークもトランペットだ。

昔の看板というかロゴのイラストは、デヴィッド・サンボーンの『ハイダウェイ』のジャケットを彷彿とさせるテイストだった。
多角形の図形を組み合わせたピアノとピアニストのイラストで、この絵柄も私は好きだった。

ところが、最近の「いーぐる」のロゴマークは、シンプルなトランペットだ。

真横から見たトランペットを、『ブッカー・リトル』のジャケットのテイストに似たタッチで描かれた、可愛らしいトランペット。

私はけっこう、このロゴも好きだ。

トランペットという楽器は、絵になりやすいのだろうか、それとも描きやすいのだろうか、イラストがサマになりやすい楽器なのかもしれない。

記:2002/10/21

album data

BOOKER LITTLE (Time)
- Booker Little

1.Opening Statement
2.Minor Sweet
3.Bee TeeI's Minor Plea
4.Life's A Little Blue
5.The Grand Valse
6.Who Can I Turn To

Booker Little (tp)
Tommy Flanagan (p)
Wynton Kelly (p)
Scott LaFaro (b)
Roy Haynes (ds)

1960/04/13 & 15

 - ジャズ