ボーン・トゥ・ビー・ブルー/フレディ・ハバード

      2021/02/09

アンサンブルレッスン

《アップ・ジャンプト・スプリング》聴きたさで買ったアルバムではあるが、全体を通して素晴らしい内容なので、フレディ・ハバードのリーダー作の中では、一番よく聴いているアルバムかもしれない。

《アップ・ジャンプト・スプリング》は、以前私が音楽学校で、アンサンブル・コースを受講していたときに知った曲だ。

講師はトロンボーン奏者の故・板谷博氏。
レッスンの内容といえば、音楽理論やアレンジの学習もすることはするが、基本は「実演」。

スタジオのような教室に集まった、トランペット、サックス、ギター、ピアノ、ベース、ドラムなどのアマチュア楽器奏者が、板谷氏の前で、渡された譜面を初見で演奏してゆき、演奏後に具体的なアドバイスをもらうという形式のレッスンだった。

最初から、「こう演奏するべきだ!」と強制することはなく、まずは自由に演奏させて、楽器奏者の持つ個性を殺さぬよう、良いところを伸ばしてゆくスタイルのレッスン方式は、自分の「ジャズ」に磨きをかけるという意味では、とても効果的な方法だったと思う。

演奏する曲の多くは、有名なスタンダードが中心だったが、時には板谷氏のオリジナルも演奏したし、みんなで、声を出して譜面を「歌う」レッスンをしたこともあった。

腕に覚えのある人でも、目の前でプロのジャズマンが、腕を組んで目をつぶって自分たちの演奏を聴いている姿を見ると、妙に緊張というか、萎縮してしまうもので、毎回冷や汗をかきながら演奏していたし、演奏が終わったあとの講評がとても楽しみな反面、とても怖かったことを覚えている。

ちなみに、一番最初のレッスンで私が最初に言われた言葉は、
「キミ、ベースの音がデカイよ。」
だった(笑)。

もっとアンサンブル全体の音を聴き、自分の役割を心得なければならないことを指摘され、そのときはえらく落ち込んだ記憶がある。
しかし、プロに言われる「たった一言」には重みがあり、言われてみればその通りなことも多いので、そのレッスンで学んだこと、叱られたことは、今でもバンド活動をする上で、役に立っていることが多い。

アップ・ジャンプト・スプリング

と、余談はさておき、そのアンサンブル・レッスンで、ある日のこと、
「この曲をやってみよう」
と板谷氏が持ってきた譜面があった。

それが《アップ・ジャンプト・スプリング》だ。

この曲を知っている人がいなかったので、氏が、テーマの部分をトロンボーンで演奏してくれた。

伴奏は、もちろん、私を含めたドラム、ギターのリズム隊。

三拍子のゆったりしたテンポの上を、ふわふわと、まるでマシュマロのように柔らかいメロディが、トロンボーンの暖かい音色で奏でられた。

そのときは、ベースを弾きながらも、トロンボーンの音色と旋律に聞き惚れてしまい、肝心なベースの演奏のほうがおろそかになってしまっていたが……。

この曲は、フレディ・ハバードのオリジナルということなので、早速彼の演奏も聴きたくなった。

レッスンの帰りに新宿のCD屋を数軒周り、ようやく探し出した一枚が、『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』だった。

パーソネルを見ると、テナー・サックスがクリフォード・ブラウン=マックス・ローチ・クインテットの一員だったハロルド・ランドではないか!

ブラウンの陰に隠れて、ちょっと地味な印象のサックス奏者だが、私は彼のテナーが結構好きだし、曲目を見ると、これまたブラウン=ローチ・クインテットが演奏していた《ジョイ・スプリング》もあるではないか!
ハロルド・ランドと《ジョイ・スプリング》。
この二つが、私をレジに直進させる大きな推進剤となった。

《ジブラルタル》が良い

さて、いざ聴いてみると、目当ての曲だけではなく、他の曲もとても良いことに気がついた。

一聴、地味な感じもするが、しっかりと地に足のついた力強い演奏。

落ち着いて、しかもスケールの大きい演奏が続く。

特に冒頭の《ジブラルタル》が個人的には好きだ。

スタンリー・タレンタインも『シュガー』で演奏している名曲で、なんといってもテーマがカッコいいと思う。

パーカッションの導入が、より一層この曲のスケールを大きく、雄大なものにしていると思う。

パーカッションといえば、《ジョイ・スプリング》もパーカッションの導入の効果は、抜群。楽しめる演奏内容だ。

《トゥルー・カラーズ》では、フレディ・ハバードのトランペットが、ブリリアントなトーンで、力強いソロを取っている。

力強く豪快なだけではなく、バラードではトランペットからフリューゲル・ホーンに持ち替えている。

タイトル曲「ボーン・トゥ・ビ・ブルー」と、先述した《アップ・ジャンプト・スプリング》の2曲だ。

トランペットよりも、柔らかく暖かいフリューゲル・ホーンの音色は、曲想にマッチしていて、とても美しい演奏になっている。

このアルバムは、歴史的にも、ジャーナリズム的にも、センセーショナルな面はないし、一言で素晴らしさを伝えるようなキャッチーな言葉も見つからないが、ベテランがじっくりと演奏に取り組んだ、味わいの深い好盤なことは確かだ。

記:2002/05/17

album data

BORN TO BE BLUE (Pablo)
- Freddie Hubbard

1.Gibraltar
2.True Colors
3.Born To Be Blue
4.Joy Spring
5.Up Jumped Spring

Freddie Hubbard (tp,flh)
Harold Land (ts)
Billy Childs (p)
Larry Klein (b)
Steve Houghton (ds)
Buck Clark (per)

1981/12/14

YouTube

動画でもこのアルバムを紹介しています。

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