クリフォード・ブラウン、パリの脱出セッション
2021/02/11
抜け駆けセッション
「パリの脱出劇」というと、ちょっと大げさかもしれないけど。
要するに「抜け駆けセッション」というやつですね。
クリフォード・ブラウン(以下、ブラウニー)は、一時期ライオネル・ハンプトン楽団に在籍していたことがあります。
ハンプトン楽団が53年にヨーロッパツアーに出かけた際もブラウニーは、在籍していました。
ハンプトン親分は、楽団員が現地で録音することを禁じていたようなのです。
禁止令まで敷いて、おまけに、「抜け駆けするやつはいねーだろーなぁ」と目を光らせていたんだそうです。
しかし、ホテルからの脱出に成功したクリフォード・ブラウン。
首尾よくホテルを抜け出したブラウニーは、ジジ・グライスが音楽監督を務めるオーケストラと共演し、残る曲はコンボでの演奏を果たしました。
その演奏のすべてが「すんばらしい」。
ある意味、ブラウニーのリーダー作品のようでありながら、ジジ・グライス色のようなものも際立っている。
じつに味わい深い演奏ばかりなのですよ。
この演奏群は、コンプリート盤として、現在Vol.1~3に収録されています。
ブラウニーの伝記
ちなみに、クリフォード・ブラウンの伝記を読むと、ホテルからの脱出劇についても触れられていて、読むとなかなか面白いんですね。
厚めのハードカバーの本ですが、ブラウニー好きが読めば一気に読めます。
そして、読めば読むほど「ブラウニーって本当にいいヤツだったんだよな~」と思えてきます。
「パリの脱出劇」は、品行方正&優等生なイメージの強いブラウニーの、お茶目な一面を垣間見れるエピソードの一つです。
ジジ・グライスとの相性
個人的には、クリフォード・ブラウンのトランペットと相性の良いサックス奏者って、端正でしなやかなプレイスタイルの人だと思うんですよ。
悪く言えば「地味」なのかもしれませんが、輝かしいブラウニーのトランペットと張り合うサックスよりは、いぶし銀のようなタイプのほうが、両者の個性が際立つため、繰り返し聴きたくなるのです。
まず思い浮かぶのが、ブラウン=ローチ・クインテットでブラウニーとともにフロントで陣を張っていたハロルド・ランド(ts)でしょうね。
そして、アルトサックスでは、やはりジジ・グライスが良いと思うんですよね。
そう感じさせてくれた最初の1枚が私の場合、ブルーノートの『クリフォード・ブラウン・メモリアル・アルバム』でした。
参考:クリフォード・ブラウン・メモリアル・アルバム/クリフォード・ブラウン
もう一人のアルトサックス奏者、ルー・ドナルドソンも参加している曲もありますが、個人的にはブラウニーの場合は、ジジ・グライスとの共演のほうが、「よりジャズっぽく」感じ、以来、ブラウン経由でグライスというアルトサックス奏者を好きになることができました。
ブラウニーが前線での突撃部隊だとすると、グライスのアルトは、彼を後方から支援する火力支援部隊。役割を心得た両者がうまい具合に共存しているバランス感覚がじつに良いのです。
突撃部隊というと、なにやら物騒な感じもしますが、ブラウニーラッパの突撃っぷりは、それこそ無駄がなく優雅で美しいのです。
そして、良い意味でキャラがかぶらず、かといって離れすぎてもいないグライスのサウンドキャラクターも、常にブラウニーとは丁度良い距離感を保っています。
ブラウニーの名盤をひととおり聴き終えた後は、これらパリの3枚にトライしてみるのも良いかもしれませんね。