キャリベ/ザ・ラテン・ジャズ・クインテット
交わることなく共存
すごく不思議な状態でサウンドが共存している。
たとえば、動物園の檻の中に、サルとゾウを一緒に入れたとする。両者はケンカもしなければ、仲良しにもならない。お互い、ちょっかいを出すこともなく、淡々と互いの迷惑にならないように暮らしている。
ゾウはゾウで、自分のペースで生活しているし、サルはサルで、自分の興味の赴くままに飛んだり跳ねたり、オモチャで遊んだりしている。
サルが好きな客は、サルのユーモラスな動きを笑うし、ゾウが好きな人は、ゾウの泰然自若としたマイペースっぷりをじっくりと見物する。
しかし、両者が交わる姿、たとえば、サルがゾウの背中にのっかったり、ゾウがハナでサルにちょっかいを出す姿はついぞ見れない。
ゾウはゾウ。
サルはサル。
ただ、自分たちは自分たちのままに生きている。
……いや、実際は、サルとゾウを檻に入れたらどうなるのかは分からないけれども、ドルフィーとラテン・ジャズ・クインテット(以下LJQ)の共演を聴いていると、そういう喩え話が思い浮かんでしまう。
それだけ、LJQはLJQのスタイルを保ち、ドルフィーに歩みよることはないし、同様にドルフィーもLJQのサウンドコンセプションに己のスタイルを近づけようとはしない。
それなのに、不思議と音楽は壊れない。
水と油が、水と油のままに進行し、決して交わることなく、だからといって衝突することもなく終わる。
もちろん、テーマなど、アンサンブルが必要とされるところはキチンと両者の音はかみ合っているが、どこかよそよそしさが漂う。
不思議感触サウンド
その名のとおり、南国的で清涼なサウンドを貫くLJQ。
いつものとおり、跳躍の激しいフレーズで空間を縦横無尽に行き来するエリック・ドルフィー。
ドルフィーは、アルトサックスとフルートを曲によって吹き分けているが、こと、アルトサックスでのプレイされた曲を聴けば、ドルフィーの浮きっぷりは明らか。
フルートは、音色のおかげか、少しは演奏に溶けているかのように聴こえるが、よく聴くと、フルートのプレイも、いつものドルフィーなんだよね。
己のペースを徹頭徹尾貫き、決してLJQのシンプルな南国テイストに踏み寄ってはいない。
いったい彼らはどういう姿で、どういう表情でレコーディングをしていたのだろう?
親しみやすくもよそよそしい、すごく不思議なサウンドがここでは味わえる。
演奏のクオリティはとても高く、どの曲も聴きごたえがある。
ドルフィー・ファンのみならず、熱くなりすぎないクールなラウンジ・ミュージックがお好きな方にもオススメのアルバムだ。
記:2006/11/04
album data
CARIBE (Prestige)
- The Latin Jazz Quintet + Eric Dolphy
1.Caribe
2.Blues In 6/8
3.First Bass Line
4.Mambo Ricci
5.Spring Is Here
6.Sunday Go Meetin'
Eric Dolphy (as,fl)
Charlie Simons (vib)
Gene Casey (p)
Juan Amalbert (conga)
Bill Ellington (b)
Manny Ramos (ds,timbales)
1960/08/19