シャンソン・エクストレット・ドゥ・デギュスタシオン・ア・ジャズ/菊地成孔

   

色彩のサンバ

《色彩のサンバ》のブレイクの箇所が好きだ。

そう、カヒミ・カリィの

♪ジュテーム・テーム・テム

のところだ。

この数秒の声聴きたさのために私はこの曲をかける。

この曲のショートバージョンが収録されている『デギュスタシオン・ア・ジャズ』も良いが、こちらのバージョンは短いゆえに、

♪ジュテーム・テーム・テム

は、1回しか聴けない。

だから、この曲に惚れたら、上記、膨大な曲のコマ切れ羅列アルバムから選りすぐった、ヴォーカルナンバーをフルバージョンで聴ける『シャンソン・エクストレット・ドゥ・デギュスタシオン・ア・ジャズ』も必携なんですね。

カヒミ・カリィ

カヒミ・カリィのヴォーカル、いや、吐息の成分90%以上で醸成される甘い囁き、空気の振動。

一瞬の聴きどころだが、これを好きになれば、《色彩のサンバ》という曲も丸ごと好きになることだろう。

ちなみに、先日、神保町の「BIG BOY」で、マスターにこのアルバムをかけてもらった。

マスター、「キ・ク・チ・ナ・ル・ヨ・シィ? これ、本当にジャズなんですかぁ?」なんて言いながら、ものすごくイヤそうな顔をしてかけていたが、隣のカウンターに座っていたアマチュア楽団でトロンボーンを吹いている常連のオジサンは、「なかなかカッコいい」と言って、しげしげとジャケットを見つめていた。

UA

ちなみに、そのオジサンが顔をしかめていたのが、この曲の前のナンバー《UAの歌唱による“マネージャングルのジャンヌ・ダルク”》。

タイトル通り、ヴォーカルはUA(うーあ)だが、一聴、アビー・リンカーンが歌う《アフリカン・レディ》を彷彿とさせるアレンジ、ヴォーカルだが、聴いているうちに、だんだんと気分が萎えてくるのは何故だろう?

同じく菊地成孔とのコラボレーション作『キュア・ジャズ』のヴォーカルにもいえることだが、UAの歌唱は、聴いた瞬間は“それっぽい雰囲気”に満ち満ちているにもかかわらず、演奏が進むにつれて、だんだんと、大袈裟ともいえる“それっぽい雰囲気”だけで、歌を引っ張ろうとするツラさがチラチラと目につきはじめ、聴いているとだんだんつらくなってくるのだ。

つまり、数多くの本場のジャズヴォーカルを聴いてきた耳には、限りなく作り物っぽいニュアンスが拭えない。

無理してる、作ってる、頑張り過ぎ、トゥ・マッチ。

ジャズシンガーのエッセンスの拡大解釈と、誇大表現に満ちた歌唱は、ケイコ・リーの歌唱にもそのまま当てはまり、どうも、私は苦手。

もっとも、UAの歌は嫌いではなく、元ブランキー・ジェットシティの浅井健一と組んだAJICO(あじこ)の作品なんかは私、結構好きだが、それにしても、UAは、浅井健一といい、菊地成孔といい、神経質そうなエッジの尖った男と組みますねぇ。

菊地ヴォーカル

大甘な《菊地成孔の歌唱による“ザ・クリスマスソング》を聴くと、いつも複雑な気分。

これは、《菊地成孔の歌唱による“名手は雨の日でも命中させる”》も同様だが、菊地の囁きヘタウマヴォーカルはいらん、やめてけれ!と思ってしまう自分と、なんとなく耳が引き込まれている自分がいる。

イヤだけど耳をそばだててしまう大甘ヴォーカル。なんか最後まで聞いてしまうではないか。ズルい。やめてけれ。

自覚的なぶん、天然で無自覚な魅力を放つチェット・ベイカーよりも、タチが悪い(笑)。

album data

Chansons extraites (de Degustation a Jazz) (East Works Entertainment)
- 菊地成孔

1.菊地成孔の歌唱による“名手は雨の日でも命中させる”
2.UAの歌唱のによる“マネージャングルのジャンヌ・ダルク”
3.カヒミ・カリィと菊地成孔のデュエット歌唱による“色彩のサンバ”
4.菊地成孔の歌唱による“ザ・クリスマスソング”(全長版)
5.菊地成孔クインテット・ライブ・ダブの実況録音による“イズファハン”

Naruyoshi Kikuchi (vo,sax,org)
UA (vo) #2
Kahimi Karie (vo) #3
Shiro Sasaki (tp) #2
Taisei Aoki (tb) #2
Takero Sekishima (tuba) #2
Noriko Kojima (fl,piccolo) #2
Masayuki Furuta (horn) #2
Chiyuko Noguchi (vln) #3
Wakako Hanada (vln) #3
Fumiko Kai (vla) #3
Hajime Ohtomo (vlc) #3
Kunihiko Iida (g) #3
Masayasu Tzboguchi (p) #1
Hiroshi Minami (p) #2,3,4
Masayasu Tzuboguchi (p) #5
Masaaki Kikuchi (b) #1
Hiroaki Mizutani (b) #2,3,4
Yoshihito Etoh (ds) #2,4
Yasuhiro Yoshigaki (ds,per) #3,5
Gen Ogimi (per) #1,2
Kenichi Yamakita (per) #3
Kazuyuki Matsumura a.k.a.ZAK (live dub acoustic) #5

2004年

記:2007/05/22

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