チック・コリア 過激で「親しみやすい」ピアノを楽しめる盤
2015/05/29
このチックのトリオは、『ナウ・ヒー・シングズ・ナウ・ヒー・ソブズ』と『A.R.C.』の中間的な肌触りといえば良いのだろうか。
ブライトな明晰さと、ミステリアスな要素が、丁度良い具合にブレンドされたサウンドテイストだ。
そして、ここがチック・コリアならではの特徴なのだが、彼の場合は、前衛的がかった音楽をやっても、難解過ぎず、頭が痛くなるような音の重圧感も感じさせない。
録音されたのは、ちょうど「サークル」結成の直前。「サークル」でのちょっとヒステリックというか、前のめり気味の鋭いピアノも悪くないが、こちらの演奏はもう少し腰が座った安定感を感じる。
これは、ベースのデイヴ・ホランドの貢献が大きい。
♪ぶんか・ぶんま・ぶんだ
と、ウッディ、かつファットな音色で演奏の屋台骨を形成し、ときには、チックに積極的にからんでゆくホランドのベースこそが、このアルバムの通奏低音といえ、『ザ・ソング・オブ・シンギング』のサウンド・キャラクターを決定づけている。
このホランドが提供する演奏の安定感が、内容の過激さとは裏腹の聴き易さを助長しているのかもしれない。
《ネフェルティティ》に注目。
チックはこの曲を気に入っていたのだろうか、ウェイン・ショーター作曲のこのミステリアス・タッチなナンバーは、『A.R.C.』でも演奏している。
ドロドロな『A.R.C.』に、シャープなこのアルバムのバージョン。両者を聴き比べてみるのも一興だろう。
しかし、いずれの演奏も、マイルス・デイヴィスがショーターらと演奏したダークなミステリアスさとは異なる、幾何学的かつ構築的なイメージ。
ピアノという楽器の特性もあるが、このサウンドテイストの違いを感じ取れれば、より一層チックというピアニストの特性が浮き彫りになってくるに違いない。
個人的には、《バラッド》の1、3がお気に入りだ。
うわべだけではなく、内省的なチックの研ぎ澄まされた美意識をたっぷりと堪能することが出来る。
“親しみやすい前衛”というと語弊があるかもしれないが、過激なアプローチが随所に見られつつも、気軽に聴けてしまうチック・コリアの名作だ。
「カモメのチック」よりも、「スパニッシュなチック」よりも、私はこの路線のチックが好きだ。
album data
THE SONG OF SINGING (Blue Note)
- Chick Corea
1.Toy Room
2.Ballad I
3.Rhymes
4.Flesh
5.Ballad III
6.Nefertitti
Chick Corea (p)
Dave Holland (b)
Barry Altschul (ds)
1970/04/07-08
記:2007/02/03