チョップス/ジョー・パス&ニールス・ペデルセン

   

弾きまくりペデルセン

ジョー・パス好きなギターフリークのみならず、全ベーシスト必聴ともいえるスリリングな弦楽器同士のデュオだ。

それにしても、うーむ、ベースのほうがギターよりもたくさんの音を弾いているのではないでしょうか?

それぐらい、ペデルセンは凄まじいテクニシャンぶりを発揮している。

驚くほどに饒舌なベースだ。

しかも、単に“おしゃべり”なだけではなく、ニュースキャスターばりに語彙も豊富だし、発音も正確。活舌も良い。

太くしなやかなゴムヒモがブルンブルンとしなるように、弾力性のある低音を発しているのだ。

いちおう、ジョー・パスとぺデルセンの双頭リーダー名義となってはいるが、実質的なアルバムの主役はぺデルセンなんじゃないかと思うほど。

もちろん、ギターとベースの名手による“対話”であることには変わりないが、お喋りなのはぺデルセン、上手に相槌を打つのが上手なのがジョー・パスといった感じだ。

もちろん対話なので、ジョー・パスが喋る側に回ることもある。

彼の語りは、ぺデルセンほど饒舌でないが、レパートリーが広くて、飽きがこない。

チャーリー・クリスチャンから、ジム・ホールまでと、新旧幅広い話題を嫌味になることなく、要点を押さえて語ってくれるので、聴き手としては嬉しくなってしまう。

この含蓄ある話に相槌を打つぺデルセンだが、相槌のみならず、自己主張を忘れないところも彼らしい。

言葉の多いぺデルセンと、言葉少なめのジョー・パス。

音的な役割分担、バランスは申し分ない。

二人とも“お喋り”だったら、きっと頭が混乱していたことだろう。

伸びやかにぺデルセンがテーマを奏でる《ジョーンズ嬢に会ったかい?》。

一糸乱れぬテーマの《オレオ》と《トリクロティズム》。

この曲で、ウッドベースで、ハーモニクスを多用するんですかい!? な《ラヴァーマン》。

ボサノヴァなのに、“ゆったり”とは無縁な、《クワイエット・ナイト・アンド・クワイエット・スターズ》。このようにプッシュしまくるベースを弾かれたギタリストは、急かされている気分になるのではないだろうか?

ウッドベースで和音を弾いて伴奏するんかい!?と絶句するのが、《オールド・フォークス》。

いやはや、和音のピッチも完璧、とまでは言わないが、許容範囲です。

もう自由奔放なバッキングなんだからぁ!な《ヤードバード組曲》。

しっとりバラードの伴奏なのに、指板全体を指が駆け巡り、なおかつギターを邪魔していない《イン・ユア・オウン・スイート・ウェイ》。

これらぺデルセンの猛烈なテクニシャンぶりには、多くのベーシストは、嫉妬を飛び越え、口をあんぐりとあけて唖然とすることでしょう。

はいはい、分かりました、凄いですね、もう後は勝手にやってください、とばかりに、呆れたフリをするしかない。

ジョー・パスの好サポートがあるからこそ、最後まで飽きずに聴き通せるが、やっぱりぺデルセンのスゴ過ぎテクニックが続くと、最後のほうには、満腹状態になってしまっているかもしれないね。

ギターとベースだけの編成だから、ムーディで落ち着いたアルバムだろう、リラックスしてブランデーでも転がしながらまったりと聴こう、なんて思うのは間違い。

グイグイと展開してゆくぺデルセンのベースに引き込まれてしまい、最後までBGMとしては聴けないことでしょう。

そのかわり、脳を刺激してやまない知的でスリリングな興奮が待っている。

記:2005/12/05

album data

CHOPS (Pablo)
- Joe Pass & Niels-Henning φsted Pedersen

1.Have You Met Miss Jones
2.Oleo
3.Lover Man
4.£5 Blues
5.Come Rain Or Come Shine
6.Quiet Nights Of Quiet Stars
7.Tricrotism
8.Old Folks
9.Yardbird Suite
10.In Your Own Sweet Way

Joe Pass (g)
Niels-Henning φsted Pedersen (b)

1978/11/19
at Chappell Studios,London

 - ジャズ