コン・アルマ/レイ・ブライアント

   

ブライアントの本質が浮かび上がった名盤

明快なフレージング。

歯切れの良いタッチ。

ゴスペルライクな左手の和音と、ドライヴしまくる右手のシングルトーン、耳馴染んだスタンダードの多い選曲。

レイ・ブライアントの代表作といえば、『レイ・ブライアント・トリオ』が筆頭に上げられることが多い。

もちろん、素晴らしいアルバムに違いはないが、一曲目の《黄金の首飾り》人気ゆえに、代表作にされているんじゃないかと勘ぐりたくもなる。

“演奏の良さ”というよりも“曲の良さ”ゆえの人気。

というのも、このなんとなく湿っぽいピアノは、メリハリの効いたブライトなタッチこそが持ち味なブライアントの本領を発揮した演奏とはどうしても感じにくい。

彼の多彩な一面を捉えた演奏という解釈も成り立つが、この手の演奏は、べつにブライアントじゃないピアニストでもいいじゃないかとも思う。

もっとも、コルトレーンの『バラード』のように、演奏家の本領発揮とは言いがたいアルバムのほうが大衆的な人気を博するということは、よくあることだ。

マイルスだって代表作『カインド・オブ・ブルー』の代表曲の一つととされている《オール・ブルース》に関しては“あれは完全に失敗だった”と述懐していることだし。

じゃあ、ブライアントの持ち味を最大限に楽しめるアルバムは何かというと、個人的には『コン・アルマ』か『アローン・アット・モントルー』だと思っている。

卓越したテクニックと、親しみやすさ。そして聴き手をノセて、高揚した気分にさせるのがとても巧みなピアニストだということを体感出来るからだ。

だから、もしレイ・ブライアントに興味を持った人がいれば、私は《黄金の首飾り》のアルバムよりも、むしろ『コン・アルマ』のほうをお勧めしたい。

もちろん《黄金の首飾り》のアルバムだって悪くはない。

しかし、「曲」よりもレイ・ブライアントという“ピアニスト”の“演奏”のほうに興味を持つならば、断然こちらの方だろう。

ラテンタッチの楽しいディジー・ガレスピー作曲の《コン・アルマ》。

《朝日のように爽やかに》の引用が微笑ましい、勢いに乗りまくった元気な《マイルストーンズ》。

名曲《ジャンゴ》の演奏は、曲の旨みを殺さずにうまく引き出している。

展開のメリハリが効いた《ラウンド・ミッドナイト》に《枯葉》。

硬派でゴリゴリな《Cジャム・ブルース》などなど、単なる“有名曲集”で終わらずに、手際よく楽しく料理し、おいしい音楽を提供してくれているのだ。

有名曲のオンパレードのピアノトリオという意味では、私の場合、オスカー・ピーターソンの『ウィ・ゲット・リクエスツ(邦題:プリーズ・リクエスト)』の何倍も好きだ。

記:2002/05/22

album data

CON ALMA (CBS)
- Ray Bryant

1.Con Alma
2.Milestones
3.'Round Midnight
4.DJango
5.Nuts And Bolts
6.Cubano Chant
7.Ill Wind
8.Autumn Leaves
9.C Jam Blues

Ray Bryant (p)
Bill Lee (b)
Arthur Harper (b)
Micky Roker (ds)

Recorded at New York,
1960/11/25 #2,4,
1961/01/26 #1,3,5,6,7,8,9

 - ジャズ