ディスアポイントメント・ハテルマ/土取利行+坂本龍一
坂本龍一的フリージャズ
現ピーター・ブルック・カンパニーの音楽監督として世界的に活躍する土取利行と、もはや説明不要な輝かしいキャリアの持ち主・坂本龍一によるデュオ作品。
名前の浸透度からしてみると、やはり土取利行よりは、世界の教授(坂本龍一)のほうが、有名だからという判断なのだろう、当時500枚しかプレスされなかったこの音源が復刻された際も、「坂本龍一の幻の音源」という枕がついていたし、実際、復刻されたCDのライナーのインタビューに応じているのも坂本龍一だ。
だから、坂本龍一のアルバムのように捉えられがちかもしれないが、実質的には、これは土取のアルバムというべきだろう。
沖縄返還前の日本最南端の島、波照間(はてるま)島と、赤道を軸に、ちょうど緯度において正反対の場所にあるオーストラリアのディスアポイントメイト・レイク。
この奇妙な位置関係を見つけ、タイトルをつけたのも土取だそうだし、ラストの演奏を除けば、どちらかというと演奏のイニシアチブは土取のパーカッションが握っている。
とはいえ、教授のピアノも、素晴らしい。
過去のいくつかのインタビューを紐解くと、彼は阿部薫ともフリージャズをやっていたこともあるそうで、なるほど、“そっち方面”のテイストなのかなと、想像をめぐらせていたら、やっぱり“そっち方面”な演奏。
したがって、最近の“癒しの坂本”や“ゆるみ系の坂本”を愛好する諸兄には、まったく受けつけない内容なんだろうね。
かなり硬派なフリージャズだ。 特に1曲目は。
阿部や高柳らが活躍していた、まさに“あの時代”の暴力的な音…、いや、音の暴力、かな?
猛る教授、狂う教授。
だが、音の隙間からは絶妙に知性が滲み出ている。
この「暴力・知性」のせめぎあいは、 後に吹き込まれた超名盤かつ彼の最高傑作『B-2unit』に通じるものがある。
もちろん、サウンドはまったく違うのだが。
難点を言えば、 1曲目の《綾》は、 録音のバランスが悪い。
ピアノの音がかなり奥に引っ込んでいて、パーカッションの音が大きすぎる。もう少し大きな音で、教授の山下洋輔ばりのピアノを味わいたかった。
アルバム後半は現代音楽的ともミニマムミュージックともいえそうな、実験的音楽。
とくに、マリンバやスチールドラムを使った《a/φ(musique differencielle 1°)》の退廃的な心地よさといったら…。
ポコポコポコポコ… シャキン、シャキン… なパーカッションが、もうなんとも…。 一日中かけ続けていても飽きなさそう。
ライナーのインタビューで教授は、「ボク、今でもジャズには否定的です」と語ってはいるが、猛り狂う《綾》のピアノの中には、和風フリージャズ的とでもいうべき匂いを強烈に感じる。
記:2005/09/26
album data
DISAPPOINTMENT-HATERUMA (ALM Records)
- 土取利行+坂本龍一
1.綾(Aya)
2.器の中(Utsuwa no naka)
3.a/φ(musique differencielle 1°)
4.∫/ (musique differencielle 2°)
坂本龍一 (p,voice)
土取利行 (per)
1975年8月,9月