エリック・ドルフィー宇宙人説~異色の傑作『アウト・トゥ・ランチ』

   

ドルフィー宇宙人説

以前、脳学者の加藤総夫氏は、「エリック・ドルフィー宇宙人説」を唱えていたが、私もこの説に一票を投じたい。

曰く、「ドルフィーは死んだのではなくて、地球の音楽をちょっとだけ変えて宇宙に戻っていった」。

たしかにそうかもしれない。

エリック・ドルフィーは、ジャズという音楽をやっていた。

ベースとなるのは、フォー・ビートというリズム、すなわち、当時の、モダンジャズの一般的なスタイルだ。

他のジャズマンと同様、ドルフィーもこのビートを土台にしてアルトサックス、バスクラリネット、フルートを駆使して自己表現をしていた。

しかし、ドルフィーを聴けば聴くほど感じるのが、妙な違和感。

もちろん、それは気持ちの良い違和感なのだが、彼のプレイは、もはや4ビートの枠をはみ出た表現に感じるのは私だけではあるまい。

ドルフィーにとって、たまたま自分の音楽に一番近いスタイルが4ビートだから、このスタイルで演奏しているだけ、という感じがするんだよね。

ドルフィーが生きていた時代は、人類は、ドルフィーの個性を最大限に生かすリズムを発明できなかったんじゃないかとすら思ってしまうのだ。

ドルフィーが生きていた時代の最も先鋭的な音楽が、たまたまジャズだったから、このスタイルを借りて演奏しているだけという気がする。

それは、今でもそうかもしれない。

いまだ、人類は宇宙人(=ドルフィー)の表現にフィットするサウンドを作りえていないような気がする。

それだけ、彼の表現は、あまりに進みすぎているのだ。

しかし、1枚だけドルフィーの異端な個性を掬い取る、奇妙ながらも美しい成果が残されている。

『アウト・トゥ・ランチ』だ。

アウト・トゥ・ランチ
Outt To Lunch

ドラム、ベース、ラッパ、ヴィブラフォンという珍しい編成。

これらの楽器が立体的に交錯し、奇妙に歪んだ空間を構築している。

ドラムのトニー・ウィリアムスが、精緻かつ大胆な空間を構築し、ボビー・ハッチャーソンのヴァイブが打楽器のように、空間を転げまわる。

さらに、リチャード・デイヴィスが不穏な空気を加味する。
彼らの生み出すリズムは、まるで四次元空間。

このリズムの谷間を縦横無尽に疾走するドルフィー。
まさに、これまでどこにも存在しなかった、捩れた美しさを誇る音楽の完成だ。

ジャケットも秀逸。

「ランチにつき外出中」。

オフィスの前に掲げられた看板の下には、いくつもの時計の針が。

地球を去ったドルフィーは、いったい、いつ戻ってくるのだろうか?

記:2010/10/19

album data

OUT TO LUNCH (Blue Note)
- Eric Dolphy

1.Hat And Beard
2.Something Sweet,Something Tender
3.Gazzelloni
4.Out To Lunch
5.Straight Up And Down

Eric Dolphy(as,bcl,fl)
Freddie Hubbard(tp)
Bobby Hutcherson(vib)
Richard Davis(b)
Tony Williams(ds)

1964/02/25

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