ダウン・ウィズ・イット/ブルー・ミッチェル

   

《アローン、アローン&アローン》の哀愁

チック・コリアや、アル・フォスターの参加が目を惹く作品だ。

彼らの参加によって、従来のハードバップ的な“まったりした重さ”とは一線を画する“ちょっと新しい感覚”に彩られた作品でもある。

とはいえ、主役はあくまで、ブルー・ミッチェルのトランペット。

相方のテナーがジュニア・クックということからも、ホレス・シルヴァーのグループを彷彿とさせるフロントラインは、ハードバップ特有の暖かな厚みも勿論健在している。

当時流行りのジャズロック路線の《ハイヒール・スニーカー》が冒頭を飾る。

景気の良い8ビートが全開。アル・フォスターの叩き出すジャズロック的8ビートは、《サイド・ワインダー》のビリー・ヒギンズに比べると、じゃっかん横揺れの要素がなくなった代わりに、脇の締まったタイトなリズムを叩き出す。

スネアをイーヴンに連打するフィルインなど、ロックの8ビートのフィーリングに近い。

2曲目の《パーセプション》は、ジャッキー・マクリーンとウディ・ショウの名演《スイート・ラヴ・オブ・マイン》(『デーモンズ・ダンス』に収録)を彷彿とさせる曲調。

リズムフィギュアも《スイート~》に近いし、漂う肉厚な哀愁も同様。

もっとも、マクリーンの『デーモンズ・ダンス』は、この録音の2年後なので、もしかしたら、マクリーンやウディ・ショウは、この曲を聴いていたのかもしれない。

と、1曲目、2曲目までは、当時の流行をふんだんに取り入れたリズム、サウンドとなっており、アルバムの冒頭は“新しさ”でリスナーにアピールしようという試みなのだろう。

しかし、本音は3曲目から。

バラードの《アローン、アローン&アローン》だ。

この伸びやかで切ないトーンこそがブルー・ミッチェルの本領。彼の持ち味が十分に発揮された名演奏だ。

1回、2回の鑑賞では、曲の輪郭が掴みづらいかもしらないが、何度も聴いてみよう。きっと染みてくる。

同じく、肩肘張らずに、ミッチェルの歌心が発揮されたのが《マーチ・オン・セルマ》。

コルトレーンの『コルトレーン・タイム』(或いはセシル・テイラーの『ハード・ドライヴィング・ジャズ』)のブルース《シフティング・タイム》とそっくりのメロディのブルースだ。
作曲者は、たしかケニー・ドーハムだったから、もしかしたら、この繰り返されるフレーズはトランペッター的な発想から生まれたメロディの断片なのかもしれない。

タイトルにはマーチとつくが、横よりも縦のノリが強調された4ビートだ。

冒頭の2曲、そして、ラストのボサリズムの《サンバ・デ・ステイシー》と、このアルバムには、いくつかの4ビート以外のリズムの試みもあり、アルバム全体が単調にならないような選曲となっている。

しかし、私としては、バラードの《アローン、アローン&アローン》や、ブルースの《マーチ・オン・セルマ》の演奏に、洗練された歌心の持ち主、ブルー・ミッチェルの本領を見る思いだ。

《アイル・クローズ・マイ・アイズ》でのほんのり切ないブルー・ミッチェルのトランペットを期待されている方は、どうか1曲目のジャズロックに驚き聴くのをやめたりはせず、是非、最後までじっくりとつきあっていただきたい。

ミッチェルが持つ“ほのかな哀愁”は、きっと感じ取ることが出来るはずだ。

記:2007/10/06

album data

DOWN WITH IT (Blue Note)
- Blue Mitchell

1.Hi-Heel Sneakers
2.Perception
3.Alone, Alone, And Alone
4.March On Selma
5.One Shirt
6.Samba de Stacy

Blue Mitchell (tp)
Junior Cook (ts)
Chick Corea (p)
Gene Taylor (b)
Al Foster (ds)

1965/07/14

 - ジャズ